4
セレーネはお尻のポケットからカードケースを取り出し、ザインは警戒センサーを最大限広げた。
「来る!」
そして交差点の真ん中に置かれている羽根が生えた軍神の像の影から、
その背後の樹の影からも2機、現れる。
分解男と
『機械化猟兵団?』
軍神の影から浮かび上がってきた
『姫君とその女神の永遠の騎士の鎧よ。今日は戦いに来たのではない。そして――リリィ』
そしてリリィに視線を向け、リリィは戸惑った表情を美少女フェイスに浮かべた。
セレーネはんん、と眉をひそめてリリィに目を向ける。
「元カレ?」
『違います!! 戦争のとき、同行していた部隊の隊長機で名前は――えっと』
「あ、名前も覚えられてないんだ。かわいそう」
『アレク機械少佐だ』
『この男、しつこかったんですよ!』
『民生機上がりを心配していただけだ! 今日は、我らの意図を伝えに来た』
『分解男が来ますけど、大丈夫ですかね?』
ザインが自動人形分解銃を構えて走ってくる分解男に目を向ける。
するとアレク機械少佐に随伴してきた2機が迎撃に向かう。
発砲音が複数するが、命中した気配はない。
『手練れを連れてきた。しばらくは大丈夫だろう』
アレク機械少佐は穏やかな
「わたしのコンサートをぶっ壊してくれてご挨拶だよね」
『そういう依頼だったのでな。恨むなら依頼主を恨んでくれ。今の我々は明日のエネルギー欲しさに非合法な仕事を請け負う傭兵団でしかない』
「むっかー! やったのはあんらでしょうが」
『実は今回の依頼主のことを信用していいのか、内部でも議論になっていてな。それであたりをつけに来た。おそらくこの行動も筒抜けだと思うが、分裂するよりいい』
『犯行声明の件ですね?』
ザインはアレク機械少佐に目を向ける。本当に分解男はしばらく足止めされそうだ。
『察しがいいな。あれは我らが出したのではない。我らを焚きつけ、人間との分断を進めようとする手だろうと思われるのだ』
「で、何よ、目標に接触するってのは?」
セレーネはご立腹だ。
『依頼主の目的は姫君とその女神の永遠の騎士の鎧を手に入れることだ。だが、それは今すぐに、ではないらしい。ときが満ちるまでつつき続けろということだった。そうすれば――』
「そうすれば?」
『伝説のピグマリオンの杖をやる、と』
「あの、彫像を人間に変えるってあの神話の?」
『呪われし者――世界一の探検家、ハイランダー卿なら持っていても不思議はないかも』
ザインは思わず口にしてしまい、セレーネに睨まれる。
「そういう重要な情報はここぞってときにとっておくの!」
『そう、なのか。実在するかもしれないのか』
アレク機械少佐も戸惑い気味だった。
『
「弱いところ突いてくるね」
セレーネは少し同情気味だ。
『それが本当なら――一縷の望みに過ぎなくとも、可能性があるのなら、この出口のない迷路から出られるのであれば、我らは人間になりたい』
アレク機械少佐は誰にいうでもなく、そう言葉にした。
ザインにその気持ちは分からない。分からないが、虐げられた者が、権利を求めたいと考えるのは自然だとは思う。
『じゃあ、この後は依頼主の言うとおりにするんですか?』
『それはわからない。だが、人間になれる可能性が本当にあることを教えてくれた礼はせねばならないと思う。依頼主が姫君から手に入れたいのは最終階位魔法「
そして分解男と交戦中の2機に合図をし、アレク機械少佐と2機は影の中に消えていった。
ザインはセレーネの顔を見る。
『結界は?』
「張ってたら情報を引き出せなかったでしょう? 3ちゃん、上出来。結果オーライ」
『少なくとも敵が1枚板でないことが分かりましたね。機械化猟兵団の中でも、依頼主の呪われし者との間でも』
「でも、
『機械化猟兵団と戦わせて完成させるつもりなんでしょうよ』
『セレーネ様、ザインさん、何もなくて本当によかったですよ!』
リリィは泣き出しそうだ。
「ごめんね、リリィちゃん、巻き込んじゃって」
『私も一応、関係者だったみたいなのでお互い様です』
「ありがと」
自動人形分解銃を排莢する音がして、分解男が駆け寄ってきた。
「お嬢ちゃん、大丈夫か?!」
「分解男さんこそお怪我がないようで。今日は入構許可はありそうですね」
「あの事件の後だからな。それより、何もされなかったんだな?」
そして訝しげにザインとリリィを見た。
「機械化猟兵団がこいつらのスカウトに来たのか?」
「あー、そうか。リリィちゃんに声をかけたのはそういうことか」
セレーネは納得したように頷いた。
分解男はホルスターに自動人形分解銃を収めた。
「事情、聞いていいか?」
「自分たちは傭兵団でしかないって言ってましたよ。黒幕調べてください」
「そんなん、心当たりありすぎでわからんわ」
「まあ、そうですよね――」
機械化の叛乱から10年経っても、未だ大陸西部には多くの火種がくすぶっている。
「任意聴取に来てくれるか?」
「お断りします。私、これでも忙しい身の上なんです」
「くう、上からまた怒られるのは勘弁だ。だが、コンサートで狙われ、また今狙われたのなら、また市警が来るぞ」
「それはそのとき。3ちゃんもリリィちゃんもあなたのことを怖がっているので、そろそろご退散いただけます?」
そしてセレーネは門の方向を指さした。
リリィはザインの後ろに隠れ、ザインはせいいっぱい虚勢を張って彼女を守っている。
分解男は露骨に舌打ちしてがに股歩きで去って行った。
『ありがとうございます』
『セレーネ様、格好いいです』
ザインがご主人(仮)を褒め称えるが、セレーネは身震いしてみせる。
「いや、わたしも分解男は恐いよ。あのでっかい銃を乱射するんだよ? 正気とは思えないよね」
リリィがプッと吹き出し、セレーネは苦笑する。
「まあ3ちゃんたちがトラウマ抱えるのは分かるからさ、軽くしてみたんだけど」
『実はボク、セレーネ様と一緒に何度も出くわしているので、だんだん分解男が苦手じゃなくなってきているんですよ。一緒だと安心できるのでそっちが勝るんでしょうね』
ザインがそういうとセレーネが頭を小突いた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃん」
リリィも嬉しそうな表情を美少女フェイスに浮かべた。
『しかし本当にピグマリオンの杖なんて話なるなんてなあ』
ザインはリリィを見る。それはボートの上で話をしたことに直接つながる
『噂は流れてきていましたから。ザインさんが思っているより市中の
リリィは美少女フェイスから表情を消した。
「本格的に調べてみないとなあ」
セレーネは嘆息する。リリィが手を叩いた。
『ジョミー様の家なら何かわかるかもしれませんよ。あのおうち、ものすごく大量に魔導書があって、図書館みたいなんですよ』
「カスク博士が住んでいたお宅か――それはすごいだろうね」
『お邪魔しましょうか』
「ええ! そんな――ああ、ご本人は故人だもんね。ジョミーくんの家だ」
『マルコーのダチはジョミーさんのダチなので、セレーネ様もジョミーさんの友達ですよ』
「なにそれ?」
『だってクレッシェンド様はマルコーとジョミーさんの友達なので、クレッシェンド様の恋人のセレーネ様もジョミーさんとマルコーの友達ですよ』
「聞いてないんだけど、そんな、お兄ちゃんに友達ができたなんて――」
セレーネはキッと真面目な顔に戻った。
「よし、行こう! カスク博士のお宅へ」
セレーネは拳を握りしめ、先ほど分解男ががに股で歩いて行った門への道を歩き始める。それを見てザインとリリィは不思議そうに顔を見合わせたが、きっと自分が知らないクレスの顔があることにショックを受けたのだろうという結論に達し、思わず笑ってしまう。
「3ちゃん、リリィちゃん! 行くよ」
セレーネに急かされ、2機も歩き出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます