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市警のテロ対策課が来て、捜査を開始したのは看板が燃やされて90分ほども経ってからだった。もちろん記念コンサートは中止になった。また、市と市警はパニックを招いた分解男の発砲を重視し、自動人形管理局に厳重抗議すると言っていた。これで少しは分解男が静かにしてくれればいいのだが、ワーカーホリックの彼が抗議程度で大人しくなるとも思えなかった。
セレーネとクリフ、そしてジョミーも後で調書をとるという話になり、夜中に解放された。ザインとマルコーも主人に付き合わされることになるだろう。
クレスが順を追って未成年の2人を
キャビンの中に3人、キャビンの上の席に2機だ。先にマルコーとジョミーの家に着き、連絡すると堅く誓って2機は別れた。
ザインはキャビン上の席に戻り、2人きりになったキャビン内の会話に耳を傾ける。
「次はいつ会えるのかな」
「セレーネが危険にさらされるときは駆けつけるよ」
「いや、そうじゃなくて――」
今後の危機管理について話し合っていると思ったら痴話げんかになりそうな様子だったので、聞くのをやめた。
セレーネのアパート前に
「じゃあ、セレーネのことは頼んだよ」
『お任せください』
ザインはクレスに約束し、クレスは再び
少しして
『いいことありましたか』
「聞いてた!?」
『いえ。セレーネ様が今、とても幸せそうな顔をしているので』
「そっか~~ 幸せ漏れてるか~~」
この24時間で、呪われし者に襲われて、野良自動人形(自分のことだが)の世話をし、自動人形管理局に行って野良自動人形を登録してあげ、学校にいってA級の混沌の怪物を退治し、しまいにはテロの目標になるという激動の1日を過ごしたとはとても思えない、満足げで幸せそうな笑顔を浮かべていた。疲れも吹き飛んだのだろう。
ザインの心まで軽くなるようだった。
1人と1機は6階の部屋まで歩いて階段を上る。
『セレーネ様、愛されてますよね』
彼女の荷物を持ちながら、ザインは先をいくセレーネを見る。
「不安、だけどね。クレスお兄ちゃんは優しいから、わたしを傷つけたくなくて、わたしのことを好きなんだって自分に言い聞かせているような気がしてならないの」
そしてセレーネは立ち止まり、ザインを見た。
「ごめんね、変なこと言ったね」
『大丈夫だと思いますよ。気休めじゃなくて』
ザインは階段を上りだし、セレーネも一緒に上る。
「何か彼から聞いたの?」
『ボクは人間の微妙なそのあたりの心の機微は分からないのですが、クレスさんはセレーネ様に自分の子供を産んで欲しいと思っていますよ』
「え、何それ初耳!」
『そう直接言ったわけじゃないですよ』
「ああ、びっくりした!」
『未成年だから我慢しているって言っていました。あと、あんまり無防備なふりをする攻撃はしない方がいいですよ。クレスさんの精神ダメージ大きいみたいですから』
6階に到着し、セレーネは自分の部屋のドアを開ける。
「いいこと聞いた~~やっぱそうなんだ。またおっぱい押しつけようっと♪」
『えー そんなことしたんですか。そりゃクレスさん、たいへんだ』
そしてザインは静かにドアの鍵を閉めた。
ウキグモにようやく静かな夜が訪れようとしている。
少しの時間でもいいから無事、平穏な時間が訪れてくれることをザインは願ってやまなかった。
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