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ザインの中に蓄積されている
『絶対に読んでおけ! 世界が動き出すぞ!』
一応、以前も読んだのだが、腹ぺこの最中であまり記憶がはっきりしないので、ザインは頭の中でもう一度読み返してみる。
『どれどれ。この大陸の東の端の中心都市オンポリッジで混沌の魔道士の行方不明事件が多発、とな』」
いきなりきな臭い話である。
『おそらくはその一味に狙われたシンシア・クロス・ドロップエンド伯爵令嬢にして最終階位魔法習得者を
ザインは顔色を変える。
『うわっ! ちゃんと名前にマーカーが入ってるじゃないか。気がつけボク……』
少し落ち込む。
『もちろん、この伯爵令嬢が女神様なんだよな。セレーネ様にそっくりだ』
添付の画像データを再確認するが、うり二つだ。
『このオブシディアン男爵が「女神の永遠の騎士」だ。ちゃんと女神様にお会いできたんんだな。よかった。』
女神の永遠の騎士は、この世界の根幹を成すと言われている
『その頃、東の
この西の都でも『第12火山島』探検隊事件は大きな話題になっていた。それとおなじくらい話題になっていたのが夜な夜な出没するという紅い鎧の正義の味方に関する事件だが、ウキグモが舞台の事件なのでこれとは余り関係がない。
『でも真相は
画像データを引っ張り出す。
『げげ。やっぱり昨晩の分解男のフリしてたヤツだ!』
白髪の偉丈夫、もうすぐ70歳に手が届こうという、探検家の中で並ぶものなしの英雄ハイランダー卿とあるデータの画像は確かに昨日の男だった。
『1ヶ月でこっちまで来たんだ~ 船を使ってきたにしても早いなあ』
「
今、現実のザインはセレーネと2人で街中を歩いている最中である。
『分解男、恐いなーって』
「君が分解されないために、自動人形管理局に行くんでしょ?」
セレーネはザインの額をつんとつつく。
こうして街中を歩いているだけでも、2、3体の自動人形とすれ違った。それぞれ、交通整理と販促をしている旧式の自動人形だったが、棒人間モードのザインよりは人間寄りの形状をしている。
こんなにも多くの自動人形を街中で見るのはこの大陸中でも、西の都ウキグモ以外にはない。
そもそもこの大陸で自動人形を持っているのは使役するために自動人形を作った秩序の魔道士か、ステータスシンボルとして所有する裕福な新興財閥関連の一族くらいなものだ。
しかしウキグモでは10年程前に秩序の魔道士が起こした内戦、いわゆる『機械化の叛乱』で
武装解除され、魔法力が十分に供給できる地方に移民した自動人形も数多くいる。だがそれでもまだウキグモには登録機以外の野良・非合法を含めると2千体あまりもの自動人形がいた。野良や非合法の自動人形の中には故障しても部品が足りないため、自分を直すために同型機を襲う自動人形がいたり、ただ単にバッテリーを奪うために襲う自動人形も現れている。それどころか未だ武装解除せず、徒党を成している武装自動人形軍団がいるような有様で、表でも裏でも大きな社会問題になっていた。
そのためにもうけられたのが自動人形管理局であり、そこに所属する戦闘エリートであり、自動人形を処分する権限を持つ通称『分解男』は全ての自動人形の恐怖の的になっているのである。
ザインのような野良の自動人形と思われる存在は、分解男の格好のターゲットだった。
分解男の自動人形分解銃は、
『うわー、思い出したくもない』
セレーネはくすくす笑い出す。
「動物病院に連れて行くときのワンちゃんみたいだね、3ちゃん」
『否定できません……』
ザインはしょんぼりする。
『ああ、動物病院と言えば!』
「?」
ちょうど2人が商店街の中を歩き始めたときだった。
『おーい、
前からワインレッドの毛並みをしたオオカミ型の
『マルコー!』
ザインが喜びの声を上げると、マルコーと呼ばれたオオカミ型の
『スティック、バラバラにされてなくてなによりだ』
「3《ザイン》ちゃん、お知り合い?」
肩をたたき合う
『はい、野良時代に大変お世話になったんです』
『スティックのダチのマルコキアスというもので』
『え、ボク、マルコーの友達なの?』
『何を今更~♪ ダチもダチ、親友だろう、オレらさー』
2機はバンバンと肩をたたき合い、いつの間にかガンガンと力一杯お互いを叩き始める。本当に親友かどうかはかなり怪しい感じだ。
『やめよう、エネルギーの無駄だわー』
『うん』
「3ちゃん、
『記憶回路が故障したことがあって、そのとき、スティックのお陰でオレ、ご主人のもとに戻れたんで』
『話せば長くなりますが、ジョミーさん、元気?』
『元気、元気。今度、高校生になるんだぜ』
『そっか~ 受験も上手くいったんだね。よかったよかった』
「うわ、すごい男友達感」
『ところでこの規格外の美人さんがもしかして探していたご主人かぁ?』
『とりあえずこれから仮にお世話になる人で、セレーネ様っていうんだ』
「仮だろうとなんだろうと登録上はわたしがマスターだかんね。しかしマルコーくんとやら、君は見る目があるねえ」
セレーネはこれ以上ない褒め言葉をマルコーから貰って上機嫌だ。
『お前、このままマスターになってもらえばいいさー。こんな美人に使ってもらえるなんて最高じゃないかぁ』
『そうも行かない渡世の義理がございまして』
ザインは嘆息する。
『そうか。まあ、引き続き頑張れー。そうそう、今日のリリィちゃん、猫耳だったさ』
『やっぱりリリィちゃんを見に行ってたのか~』
『今日もかわいかった。きっと彼女も心配しているぞ。野良じゃなくなったって報告してやれ』
『うん』
『じゃあな。野良じゃなくなくなったんだから会う機会も増えるだろ。スティック――じゃない、ザイン、サヨナラさー』
『ジョミーさんによろしくね~』
そしてオオカミ型に戻るとマルコーは四本脚でてくてくと商店街を後にした。
「お友達いるんだ? リリィちゃんって?」
『動物病院のアシスタント兼看護用
「それでさっき……じゃあ、寄っていこうか」
『ええ? いいんですか?』
セレーネは嬉しそうな顔をする。
「3ちゃんが喜ぶのが見たいし、お友達も見たいし、君のこと少しでも知りたい。この先でしょ?」
いいご主人様(仮)だなあ、とつくづくザインは思う。
セレーネはさっそうと商店街の中を歩いていく。
不思議な子だなあ、と思う。
部屋に置いてある服や調度品はだいたいがとても高価なものなのに、今、彼女が身にまとっているのは東の大陸で流行っているデニムの、元は作業着というファッションで、動きやすく、汚れても構わないような格好をしている。スラリとした肢体にぴったりとしたパンツルックで、足下も元はスポーツ用の靴というスニーカーだ。
この商店街で買い物もよくするようで、今はお肉屋さんの店先でコロッケを買って頬張っている。
「おばちゃん、今日もコロッケ美味しい~」
「また夕方も来てね~」
「うん~」
小さく手を振ってお肉屋さんのおばちゃんに別れを告げる。
「君もコロッケ食べられたら良かったのにね~」
『よく思いますよ』
「もしかしてこの先の動物病院?」
『そうですよ』
「わたし、もしかして見たことあるかもしれない」
『それは偶然ですねえ』
そしてしばらく歩くと、
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