第27話 え、私でいいの?

『なんか覚醒したぜッ、ひゃっはー!!』


 乱戦のせいでハイになっている満身創痍な白銀の械人カイジン、その背中と右腕へ現化量子の光が生じて、加速装置ブースターのような噴射機構や大きなガントレットを形成したかと思えば、凄まじい速度でヴァルバドに吶喊とっかんする。


 本能的な危機を感じたのか、咄嗟とっさに振るわれた腕部の生体剛刃アームブレイドと鉄槌のごとき打撃が衝突して、双方の片腕ごと跡形もなく対消滅した。


「グォオオッ!?」

呵々かか、ここまでだな』


 苦鳴と哄笑こうしょうが響いてすぐ、よろめきながら精魂尽きた銀拳シルバーフィストは立ち消えるも、ここが分水嶺と判断した断裁乙女ハルバードの鼓舞で総員突撃の流れとなり、無数の銃弾や刃が弱体化した相手に殺到する。


 反動に囚われない能力を持つ速断リコイルレスの流麗な斬撃が冴え渡り、このまま押し切れるとかすかに場の空気が緩んだ瞬間、体躯たいくに対して不十分な大きさの刃翼じんよく羽搏はばたいた人型の怪物が低空へ浮かんだ。


「ヴォオルァアアァアァ――ッ!!」


『ッ、あの図体ずうたいで飛べるのかよ!』

『うちらの弾丸なら…って、ふぎゃあぁ!?』


 にわかに自動小銃をたずさえた者達が進み出るも、前触れなくばらかれた鋭利な小羽が降り注ぎ、慌てて変電設備の残骸へ隠れようとした者達を諸共に切り刻む。


 仮に現役で通電していた頃なら、停電に陥る都市部含めて大惨事だなと現実から目をらしつつ、他と同じく物陰へ潜んだ黒犬ブラックドッグは打開策を融合中のクリムに求めるが、“無理、んでる” と投げやりな言葉を返されてしまった。


『無念……』

『ぐッ、また失敗するの?』


 耐久の尽きた速断リコイルレスが消滅して、気丈な断裁乙女ハルバードすら諦め掛けている現状にいたり、ここまで余り活躍の無かったギルド… ねこ鍋商店街の雇った “隠し玉” が炸裂する。


 逃げ惑う白猫班最後の生き残りを余所よそに可視範囲外より、空気を裂いてきた対物狙撃銃の 12.7×99㎜ 徹甲弾が巨獣ヴァルバドの左眼を射抜き、脳に損傷を与えることで地上へと墜落させた。


『… 何処どこかで見たような光景の気がするぞ』

『ん、見事なヘッドショットね、あの狩人さんかな?』


 的確なクリムの指摘に辟易へきえきしながらも、天与てんよの機にけた黒犬ブラックドッグが遮蔽物から飛び出して、極限まで膨張させた大爪付きの追加装甲ごと右腕を振り抜き、膂力りょりょくに任せた袈裟掛けの爪撃そうげきを巨獣へ叩き込む。


 ほぼ同時に別方向より仕掛けた断裁乙女ハルバード斧頭ヘッドで無防備な脇腹を深くえぐり込み、可能な限り増大させた質量によって、内臓に達する一撃を加えていた。


「グ… ウゥ…… ァ… ッ……」


 もはや彼ら以外に健在なのが一人だけ、という散々たる有様ありさまであるものの、血まみれの “刃翼持つ人型の巨獣” は地面へくずおれて、緩やかに息を途絶えさせていく。


『何とか、討ち取れたみたい』

『それ、第二形態とかのフラグだからやめておけ』


 疲労のにじんだ声で騎士の械人、琴音が零した言葉に表情を歪めて、念の為とばかりに黒犬ブラックドッグが大爪を眉間に突き入れるやいなや、鉄樹の森にいるすべての遊戯者に向けて仮想世界UnderWorldの管理システムから通知が届いた。


 “NPCのクリームヒルト(武器形態)によるヴァルバド撃破を確認” と。

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