第26話 人間は集団性のいきものです!!

『ッ!?』


 不意討ちならずも、断裁乙女ハルバードは袈裟掛けに戦斧を振るいながら、自身の持つ “触れている無機物の質量を変化させる” 能力で武器重量を増加させ、刃翼じんよく持つ人型の巨獣 “ヴァルバド” が放った横殴りの一打を相殺する。


 斧刃ふじんが硬い右拳に浅く刺さり、血飛沫の舞う中で相手の左拳も振り下ろされるが、既に女騎士の姿はなく地面をえぐるだけとなった。


 無為むいに伸びた太い左腕を後続の黒犬ブラックドッグが駆け上がり、形容しがた獣面けものづらに渾身の力で大爪を喰らわせて離脱すれば、苛立たしげな咆哮ほうこうを轟かせて暴れまわる。


「グォルァアアァ――ッ!!」


 そのおり、四枚ある背中の刃翼じんよくを広げたことから、追撃を試みようとした宴華えんか械人カイジンが二名ほど切り裂かれて、現化量子の塵に還元された。


『これは単純な数的優位で押し込めるたぐいじゃないな』

『同感… ていうか、腕痛ぇわ』


 本人の意思にらない自動防御により、両腕の手甲で不意の斬撃をしのいだ銀拳シルバーフィストは愚痴りつつも、一瞬の隙を突いて巨大な体躯たいくの足元へ飛び込み、まばゆい燐光などまとわせた右拳で強烈なハンマーフックを脚部に叩き込む。


 ただ、鈍い打突音に反して与えたダメージは軽微なものであり、乱雑に蹴り払われた挙句あげく、岩塊のごとき反撃の拳が落とされた。


『うぉおッ!?』

退け!!』


 わずかに身体を硬直させた白銀の械人が圧し潰される間際まぎわ、斜め横からフルスイングで振り上げられた断裁乙女ハルバードの戦斧が大きな拳を迎え撃ち、特技スキルで上乗せした質量と速度を以って短時の均衡きんこうもたらす。


 直後、斧頭ヘッドを弾いて地面へ突き立った一撃は寸分すんぶんの差でかわされ、砕き散らした混凝土コンクリートの破片で二人の胸部装甲を傷つけるにとどまった。


 されどヴァルバドの暴威はしずまらず、狙わタゲられてないのを良いことに死角より、ひたすら銃弾を撃ち込んでいた “ねこ鍋商店街” の械人ら目掛け、長い尻尾で薙ぎ払うようなテールバッシュを見舞おうとするが……


 それは躊躇ちゅうちょなく割り込んだ黒犬ブラックドッグが肥大化させた大爪付きの追加装甲でふせぎ、傾斜けいしゃを持たせることで上空へ受け流した。


『ぐッ、中々に厳しいな』

『確かにソロじゃ無理でしょうね、これは』


 重い衝撃にクリムが背筋を寒からしめるも、過酷な生存競争を数と連携で乗り切った人類史の再現というべきか、滑り込んできた大剣つかいの械人 “速断リコイルレス” の斬撃を皮切りにして、次々と皆の攻撃が重ねられる。


『… 私達で可能な限り盾役を引き受けよう』


主攻しゅこうは味方に任せるわけだ』

『勝算は… ありね、悪くないかも?』

 

 瞬時に検証を済ませた金髪緋眼のAI少女より、手堅い御墨付きをもらった史郎は断裁乙女ハルバードふんする鈴宮琴音の提案にうなずくと、有翼の巨獣へ意識を集中させた。


 そこからは互いに楯代わりの追加装甲や戦斧を駆使して、様々な部位による間断かんだんのない攻撃をいなしつつ、仲間が致命傷を受けないように立ちまわる。


 勿論もちろんだが、すべてをはばむことは不可能なため一人、また一人と脱落者が淡い燐光になって消えていく状況で、突然に限界の来ていた銀拳シルバーフィスト雄叫おたけびを上げた。

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