第22話 図らずも埋まりそうな年末の予定

 ばっさりと発言を斬り捨てられた染め髪の青年は気安く笑い、ややいぶかしげなクリムの視線を受けながらも、少しだけ身を乗り出す。


「小競り合いが嫌なら、本編の攻略に参加するのはどうだ? こっちも対人戦闘で能力値の上昇が見込めなくなってきたし、河岸かしを変えようと思っているんだよ」


 渡りに船といった感じで勧誘してくる銀拳シルバーフィストの言葉を聞き入れ、ひとまず珈琲をすすった史郎は手短に思考をめぐらせてから、ゆるりと結んでいる唇を開いた。


「初心者ゆえに無知なんだが、その攻略とやらは何処どこまで?」

「半年前のサービス開始以来、進展は “皆無” だ」


 仕様上、迷宮の怪物は金目の物を落とさず、プレイヤー側の得られる利益が少ないことに加えて、大規模な集団戦を前提とした難易度になっているため、一向に攻略が進まないのは皆の常識だったりする。


 何も知らずに現状で解放されている “鉄樹の森” へ向かえば、獣脚類じゅうきゃくるい等の怪物に群がられて四肢を喰い千切られ、心的外傷トラウマを植え付けられるのが関の山だと… 隣り合うテーブルの椅子を引いて、にわかに腰掛けた “女子高生くらいの少女” がのたまった。


「という訳で、おにーさんたち、うちのギルドに入らない?」


 北欧系の血が入っていそうな色素の薄い肌や、銀糸のようにも見える髪が特徴的な娘は椅子ごとにじり寄ろうとするも、片掌を突き出したクリムにはばまれる。


 唐突な来訪者を留める一方で、彼女はすがめた瞳で対面に座る知己ちきを睨んだ。


「この娘、貴方が呼んだの?」

「あぁ、この前に誘いを受けた勢力のまとめ役だ」


「“小さな女王パルムレギナ”、広瀬乃亜です」

「…… 随分ずいぶんと若いな、大丈夫なのか」


 いくら若者が多い完全没入フルダイブ型のVRMMOとはえ、年齢に幅のある遊戯者らをたばねていくのは困難だろうと思い、ぼそりと呟いた史郎に余裕の微笑が返される。


械人カイジン形態の特技が定位反射エコーロケーションでの広域把握や、自身を起点とする相互通信網の構築なので、戦力的に微妙でも司令塔ヘッドクォーターには向いているんですよ」


「むぅ、それくらい基礎モジュールをハックすれば私も……」

「論外な手段で張り合うなよ、運営に追い出されるぞ」


 無駄に対抗意識を燃やす電子の妖精をいさめ、彼女のマスターは立ちまわりの上手そうな乃亜に一応の理解を示してから、少し残っていた茸のパスタを黙々と食べ切った。


 その短い間に考えをととのえていたようで、胡乱うろんな視線を染め髪の青年に投げる。


「もう、勧誘の返事は?」

「いや、お前らの反応も見ようと保留した」


「大晦日に今年最後の攻略を仕掛けるから、早く決めて欲しいんだけど……」


 攻守に優れた前衛が二人いるのと、いないのでは大違いとうそぶき、銀髪碧眼の少女が形の良いあご先に左手の人差し指を当てながら、右手の指を虚空になぞらせていく。


 何やら既視感を覚えた史郎の網膜に補助ウィンドウが自動投影されて、フレンド登録の申請にかかる通知が表示された。

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