第21話 ミイラ取りはミイラにならず!!

 言わずもがな、黒犬ブラックドッグ友誼ゆうぎを結んでいる者など一人しかおらず、送られてきたのは白銀の械人カイジンからの短文である。


 それを手際てぎわの良い音声操作で隣にいるクリムへ転送すれば、彼女はUnderWorldの独自ネットワークに接続して、瞬時に記載されていた商業施設にまつわる情報を検索すると、可愛らしく小首をかしげた。


「わりと近い場所ね、飲食するなら除装必須だけど、大丈夫?」

『まぁ、VRMMOを楽しむには最低限の人付き合いも必要だろう』


 別に指名手配されている身でもなし、過剰に素性を隠すのも疑われるとうそぶいて、数分の距離にある商業ビルの入口で通常の電子体へ戻った史郎は連れの少女をともない、その一角に構えられた食堂へ足を踏み入れる。


 やはり客のまばらな店内を見渡しながら、各種情報用の補助ウィンドウを網膜に投射させるも… 先に見つけられたようで、奥の席にいる快活そうな染め髪の青年が手を掲げた。


 念の為、械人名の “銀拳シルバーフィスト” を確認した上で進み、ひと声掛けてから主従の二人が対面の椅子へ座ると、機会を見計みはからっていたメイド娘が楚々と歩み寄る。


 非常にととのった容姿を見る限り、汎用型AIの現身アバターであろう給仕は水とおしぼりをテーブルへ置き、にっこりと微笑んだ。


「注文はお決まりでしょうか?」


「何か和風のパスタと珈琲を」

「じゃあ、私もそれで……」


 手早く料理を頼み、ほぼ条件反射的に手をきつつも、この行為に意味はあるのかと史郎が疑念を抱いたところで、苦笑を噛み殺している同席者に気づく。


「無駄に芸が細かいよな、この仮想世界」


 おもむろに指差された厨房では、遊戯者と思しき店主がフライパンを振るっており、運営側から仕入れた食材を調理しなければならない仕様しようだとうかがい知れる。


 それゆえに各自の腕が反映されるため、ここの料理は旨いとのたま銀拳シルバーフィストの言葉にいつわりなく、暫時ざんじの後に運ばれてきたきのこのパスタは史郎とクリムの表情をほころばせた。


「味覚は10%の制限が掛かると聞いていたが?」

「普通よりも濃い目の味付けにすると、上手く誤魔化せるらしいな」


「私に現物との差異は分からないけど… こう、なんか、幸せな電気信号シグナルがニューラルネットワークに生じてる。これが美味しいってこと?」


 何やら名状しがたい感想を述べた非実在の少女に、野郎二人がそろって微苦笑を浮かべれば、ぎろりと三白眼のジト目を向けられてしまう。


 淑女レディの食事を凝視するのは失礼であり、つつしむべきなどと苦言をていし始めたので、麺に埋もれていたマッシュルームを食むかたわら、史郎は話題の転換を図る。


「折角だから聞いておきたいんだが、無銘むめい都市に着いて以降、取るべき行動や方針のようなものはあるか?」


「そうだな… ビギナー狩りで小銭稼ぐとか、やってる奴は多いぞ」

御免被ごめんこうむる、趣味じゃない」


 これまで散々に迷惑を掛けられた手前、逆の立場になるのは避けたいようで、銀拳シルバーフィストの提案は素気すげ無く否定されてしまう。


 例え、それがレベル制ではないUnderWorldの世界にいて、戦闘形態たる械人の各種能力値を微増させていくのに繋がるとしても、ほどの興味は無いらしい。

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