　なお、蛇足的な説明を挟むと、UnderWorldの仮想通貨は手数料を払って元の法定通貨に戻せるため、各種商品の卸先（おろしさき）である認証済み店舗で散財されてこそ、運営側の手元にお金が残る仕組みとなっている。

　要望さえあれば新商品の共同開発も辞さない積極的な姿勢から、社会実験を謳（うた）うVRMMOの環境を維持する費用の膨大さが偲（しの）ばれてしまう。

　少しでも経済規模の拡張を図り、市街地で遊戯者が落とす金額を増やしたいのか、基準額以上のゲーム内通貨が専用アプリのウォレットに入ってないと、ログインさせて貰（もら）えない仕様も理解はできるのだが……

　本日も初期地点よりの移動で小銭目当ての “ビギナー狩り” に絡（から）まれ、どうにも無銘（むめい）都市とやらに近づけない状況を嘆（なげ）き、械人（カイジン）姿の史郎は溜息を吐いた。

『三度目の正直ならぬ、“二度あることは三度ある” といった感じだな』

『もうこのパターンは飽きたわ、死に戻りのラノベじゃあるまいし』

　悪態を隠さない融合中のAI少女（クリム）と共有する視界には、青系統のボディアーマーを身に着けた鎧武者のような二体の械人が佇（たたず）み、其々（それぞれ）に太刀と鉄槍を構えている。

　彼らが発する敵意のせいか、黒犬（ブラックドッグ）の仮面に嵌（は）められた赫（あか）いバイザー、その裏側には早くも状況開始（Open Combat）の通知が表示されており、既（すで）に現実世界への自由な離脱はできない状態だ。

『あんたは銀拳（シルバーフィスト）に勝ってるからな、多対一のペナルティもないだろう』

『手堅く稼（かせ）がせてもらうぞ、新顔（New Commer）』

　曰（いわ）く、以前に数の暴力で遊戯者らを圧倒し、野盗団の如（ごと）く振る舞っていた者達は出禁を喰らい、仮想世界から締め出されたものの… 傍若無人な狼藉を働かない限り、大抵の事は運営に見過ごされると。

　それが規制全般の緩いUnderWorldの悪い点であり、良い点でもある。

　“閑話を把（と）りて休題す” とは言わないが、多少の脇道に逸（そ）れた会話を交えた後、俄（にわ）かに動き出した “刀遣（つか）い” が迫りながら逆袈裟（けさ）の斬撃を放ち、伸びた刃が後方へ避けようとする黒犬（ブラックドッグ）の胸部装甲を浅く裂いた。

『うぐっ、理不尽だ』

　思わず愚痴（ぐち）りつつ、間断なく繰り出された追撃の刃を右腕の追加装甲で弾き、連続的なバックステップで距離を取る最中（さなか）、今度は地面へ得物を突き刺す “槍遣（つか）い” の姿が視界の奥に映る。

　何らかの攻撃であるという瞬断に基（もと）づき、咄嗟（とっさ）に飛び退（の）くと寸前までいた場所から、直槍、片鎌槍、十文字槍と様々な穂先が生えてきた。

『っ、貫いた物を媒介とする槍撃？』

『地味に厄介だな……』

　恐らく目視の類（たぐい）で標的を狙い定めていると考えたのか、クリムの呟きを拾った黒鉄の械人は近場の廃ビルに駆け込み、優れた脚力で吹き抜けの階段を上がっていく。

　逃がさないように刀遣（つか）いが追随（ついずい）するも、先に登り切って振り向いた黒犬（ブラックドッグ）の右腕、そこに纏（まと）う大爪付きの追加装甲が硬質な音を鳴り響かせる。

　繋ぎ目を押し広げて大きく膨張したかと思えば、渾身の爪撃（そうげき）が振り下ろされて… 脆（もろ）くなっている階段ごと相手を崩落させた。

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