第2話 Lina・Ashfield

If one is lucky on the moon (幸先が良ければ)

DATE: 22, June

NAME:Lina Ashfield

AGE:17

PLACE:Haneda Airport/JPN


“Wolseley, 1300 mk2”そう言うと彼は彼女にキーを渡す。

彼女はドアを開き、運転席に座る。彼は助手席に座る。彼女は何度かキーを回してエンジンをかける。

“ADO16 of BMC.”

“What do you mean?”

“BMC is as known as British Motor Corporation.

ADO means Austin Drawing Office Project No.16.”

“Austin?

So why did you call this Wolseley?”

“There were 6 types,brands in this project by British Leyland.

Austin, Morris, Riley, MG, Vanden Plas , little Rolls...

And this one.”

“I see.”

“Of course you know Mini, the car.”

“Yup.”

“That was ADO15.

Alec Issigonis made them.

1300 means this enginge.

1275cc.

Maybe this classic is suited for Japanese way.”

“This looks nice."

"And too old.

Made in 1969.

My grandmother had this.

And I took over.

I did overhaul.

So there is no problem, at the moment.”


「でも、いいんですか?

大切にされている車では?」

「私は新型のルノー・クリオがあるから心配ない。

良くも悪くもハイブリッドの時代なんだ。

でもきっと、この車が君をあるべき所へと導いていくれるだろう。」


「Sunday, you still find me. Someday, you still find me. 」

昔兄が歌っていて、小さい頃から彼女の頭からその曲は離れなくなった。日曜日になっても、まだ自分を見つけることが出来る。しかしいつの日か、君はまだ自分を見つける。リズム優先で出鱈目に聴こえるのは、マザー・グースに似ている。しかし言葉が変なのは幼い頃の彼女がいくつか聞き間違いをして覚えたからだ。そのせいで歌詞はどこかおとぎ話のような世界観を獲得している。そしてそのせいもあって、彼女はこの歌とリズムをまだ覚えている。その歌の中で、誰かがこう言う。

「いつになったら君は次の街に出ていくんだ?」

それを実行するのは今が最適だった。彼女はじっと、まるで何かに耐えるみたいにそこに座り続けている。車内はどこまでも静かで、木製と年季の入った椅子は、やけに映画のワンシーンみたいだ。私はまだ何も選びとってないと彼女は思う。だけど、何にも乗っていないのに遠くへと向かっている気がする。理由はない。しかし直観は今だと告げている。


 十五時、羽田空港。彼女はとても長いフライトを終え、入国手続きを済ませる。日本語を話せるから何も問題は起こらない。窓口には人の良さそうな職員の女性が品のよい笑みを浮かべている。

「リナ・アシュフィールド」

「Yes. 」

「本国にはどれくらいの滞在をする予定ですか?」

「半年ほど。」

「日本へは何をしに?」

「留学です。

ホームステイに。」

「今日はどこに宿泊を?」

彼女は宿泊先を告げる。

「明日のご予定は?」

「これから通う高校に行きます。」

後のいくつかのやり取りを済ませると、彼女はゲートを出る。タクシーで港まで行き、自身の車を受け取る。それは異国の地で可能な限りストレスを避ける手段でもある。彼女はその小振りでスタイルのある英国車を見る。彼女はそのアイボリーの車のトランクを開けるとキャリーケースを入れ、助手席に置いたバックから充電コードとブルートゥース・スピーカーを取り出し、スマホを繋げてナビを起動する。一時間あれば目的地に到着するだろう。こうして彼女の旅が始まる。


 予定通り一時間ほどで目的地に到着する。知り合いの家がそこにあり、ガレージを貸してもらう。彼女は歩いてすぐのビジネス・ホテルを利用する。特別寂れているわけでもないこの街で、そのホテルだけが新品同然に見える。幸先が良ければ、この先もなんとかなるかもしれない。フロントで予約済みであること、自身の名前を伝える。リナ・アッシュフィールド。それが彼女の名前だ。フロントマンは笑顔で頷き、ホテルについて説明をする。こうして無事、宿泊先を確保する。十平米の良く言えばコンパクトな部屋だ。100cmよりいくらか大きめのシングルベッドが一つに、明るい照明、落ち着いた色合いの内装、ベッドの隣には一人分の椅子と小さなテーブル。空調設備に電気ケトルもある。液晶テレビが取り付けられていて、冷蔵庫もある。浴室周りはユニットバスにドライヤー、パジャマとタオル。他にもアイロンや携帯充電器も貸し出しているらしい。そのホテルは夜になると正面がライトダウンされ、白い麻で出来たきめ細かなレースカーテンが下ろされた。悪くない。彼女はリュックを椅子の上に置くと、ベッドに倒れこむ。しばらくじっとする。そしてもう夕食を取れる時間だと思う。鏡を確認すると一階に降りる。それは少しお高めのビジネスホテルで、夕食は殆どが地元野菜で作られている。それらを食べ終えると最上階の自室へと戻り、シャワーを浴び、バスローブ一枚になる。首に付けていたネックレスに触れる。アラームをセットすると、深い眠りがやって来る。

 

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