荒唐無稽な毎日の、嘘偽りなき一日
朝山の家が俺の家の隣だった。
朝山の家が俺の家の隣だった!?
「朝山の家が俺の家の隣だった!?」
「嘘でしょ……」
「おいおいそんなに喜ぶなよ」
俺は肩を落とす朝山にそう優しく声を掛ける。
「外堀を埋められていっている気がする……」
「堀内だけにな☆」
「黙れ。……まぁ家出るまでの辛抱か」
「大学、行くのか?」
「親が行けってうるさくてね。キャンパスライフも楽しそうだし、いいかなって」
「彼氏とか作るんじゃないぞ」
「あんたは私のなんなのさ。てかうっちーは? せっかく頑張って河内原入ったんだし、大学、行くよね?」
俺か。正直、いろんな人間がいっしょくたにされた環境には懲り懲りだ。
「今んとこは行かねーつもり。詳しくは言えないけど、今やっていることが成功したら職には困らない」
「……そう。うっちーのことだから、『俺は大学でハーレムを作るんだ!!』とでもいうかと思った」
「ハーレムはいいかな。一途な恋のが、俺は好きだな」
「出た翔タイム。……いや~、信じられないよ」
毎晩隣の家で奇声あげながら暴れてたのがうっちーだったなんて。朝山はそう言った。
読者諸君は俺をヤバいやつだと思うかもしれない。だがわかってほしい。「一人反省会」の辛さを。普段人と話さないと、稀に交流した際に確実にボロが出て、それが黒歴史となる。
あの時こう言ったら、あるいは言わなければ。あの時こんなふうに接していれば。あるいはいなければ。
たられば言っていてもしょうがないのはわかるが、それでも思考を止められない。後悔が止まらない。
誤解のなきように言うが、これらは朝山たちとの会話についてではなく、前の席の前澤さんや、体育のペア等々との会話によるものだ。知らない人は苦手だ。
この悩みを、打ち明けてしまおうか。拓人がいない今、なんやかんやで一緒に考えてくれそうなのは朝山くらいだ。
いや、朝山に俺のそんな顔を見せたくない。むしろ『鱈レバー? なにそれ、美味しそー!』とでも言ってほしい。
堀内翔馬。お前は、変わるんだろう? 決めたんだろう? 朝山と出会って。いつか少年院から出てくる拓人に顔向けができるように。あの頃の俺のように、前を向いて生きるんだろう?
「バタフライナイフの練習しててな」
「……そっか。かっこいいよね」
「でも、もうやめるよ。服で隠れてるけど実は切り傷だらけでさ。今日からギター弾き語りだ」
「私におぢさん構文でラインした時も弾いてたよね? 聴くに堪えないからやめて。むしろそっちのがメーワク」
朝山と別れ、家に帰り、夕食を食べ、自室に入った。
ポケットからスマホを取り出し、藤岡に電話をかける。
「もしもし、藤岡か?」
「おう、翔馬か。どうした?」
「実は修学旅行が三週間後でさ」
「嘘だろ!? そんなすぐだったか?」
「ほんとそれな。人の話は聞くもんだな」
「親御さんには言ったのか?」
「さっき言った。給料日前でよかったよ」
「それで、班員はどうだったか?」
「最高。今日喫茶店で駄弁ってきたところ」
「よかったじゃねぇか。頑張ったな」
「まぁな。……つーか、何か根回しでもしてくれたんだろ? 流石に幸運じゃ済まされない顔ぶれだ」
「いや、それだけは運が良かったとしか言いようがない。お前がネチネチとコミュニケーションを頑張った結果だな」
「ネチ・ネチ……」
「というわけで、今日録り途中の動画のデータが送られてきたから、撮影と並行して編集をしようと思ってな――やってくれるよな?」
「忙しくなるから頼むつもりだったんだが……、恩は返すよ」
「ハッハー、冗談だ。精一杯楽しめ。いやーしかし、お前に友達ができたか……。感慨深いな」
「よしてくれ。なんかムズムズする」
「わりいわりい、この年になると涙もろくなっちまってかなわねぇよ」
電話を切ろうとして、俺はふと班員以外の友達を思い出した。
「藤岡」
「ん? どうかしたか?」
「神楽陽菜って知ってるか?」
しばし間があく。どうしたのだろうか。
「なんつった?」
聞こえてなかったのかよ。まだ六十四だろ?
「神楽陽菜、だ。知らないならいいんだ」
「お前の小学校か中学の同級生か?」
「いや、高校。教師なんだし、名前とか覚えてねぇの?」
「いくら教員っつっても、全員の名前を覚えてるわけじゃねえよ。美術部の連中も危ういくらいだ」
「そうか。ならいいや、おやすみ」
「おう、おやすみ……、そうだ、お前の友達の根津君なら知ってるんじゃないか?」
「言ったろ? 高校の同級生だって。あいつが知ってるわけねーよ」
「いやな、お前が"タクト事件"を解決したおかげで奴さん、無罪放免とはいかないものの、院での自由度が上がったみたいでな、インターネットが使えるようだ。院のコミュニティーもあるし、ちょうど明日は土曜日だ。面会に行ってみたらどうだ?」
「なんでそんなに詳しいんだ?」
「お前の動向をタイトにフォローしているから」
「なんか胡散臭いけど、まぁせっかくだし行ってみるわ。んじゃ、今度こそ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
本当に、計り知れない男だ。俺はいつになったら藤岡と肩を並べられるのだろう。
「ふぁ……眠い……」
今日はもう寝よう。とはいっても寝るにはまだ早い時間で、今頃朝山たちはライブで盛り上がっているのだろう。
「そだ……忘れてた……」
その一、晴貴の連絡先を天ケ瀬さんに送る。
その二、その対価としてグループラインにいれることを要求する。
その三、晴貴への報告は明日口頭でいいや。
俺は女子たちの黄色い声を聞きながら寝落ちした。
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