最低最悪の毎日の、最高最良の一日⑧

 さて、このタイトルの話も八話目に突入。別に、タイトルが思いつかないとかではなくて、「『一日』といっておいて全然前後してるじゃないか問題」を考慮しての暴挙である。

 でもまあ、一日の感想は、その場その場で変わりますしね。今までのスタンスでいくとしましょう。それでは、本編へどうぞ。




 「ん? 謎の間があったな」

 俺は不思議に思いつつも、無人の体育館に這入る。

 俺の制服を奪った、高校での初めての男友達、もしくは相互承認の友達の川越晴貴は、俺が美術準備室で脱いだズボンをかっぱらい、体育館でバスケをすると言って翔けていった。

 それなのに、体育館に彼の姿はなかった。どんなにゆっくり行っても俺のほうが遅く着くはずなのに、何故?


 中には、二時間目で使ったのであろうバスケでのボールと、ゴールが出しっぱなしになっていた。

 見るとゴールの中に紙が入っている。ははーん、その紙に次の場所が書かれてるんだな。

 片っ端から校内を探して回るのとどっちが早いか考えたが、特別教室棟含め他の科の棟まで見て回ると、冗談じゃなく、日が暮れちまう。

「やるしかねぇか……」

 俺はボールを手に持ち、届きそうな位置まで近づく。

 ジャンプして取ればいいじゃないかって? そんな残酷なこと言うなよ。



 ほんの三十分の挑戦で、俺は紙を落とすことに成功した。三時間目はとうの昔に終わり、さらには十分休みも、ちょうど今終わったところだ。

 ここで遅ればせながらでも授業に戻るのが賢明なのだろう。だが俺は、ワクワクしていた。どうそようもないほどに。

 初めて動画を撮った日のことを思い出す。放送部をやめて、楽しかった日々が終わり、つまらない日々が始まって以来初めての、ワクワクした一日。

 

 思えばあの日、藤岡に声をかけていなければ、今の俺はいなかった。

 そう気づけるほどには、俺は千切れていないのだろうな。


 ゴール下まで行き、紙を拾い、開く。



       

        『職員室』





 どうやら現実はどこまでも、俺に残酷らしい。


 


 本日数度目の全力疾走。今日一日でかなり体力がついた気がする。文化部→帰宅部なのに、運動部より運動部してる。


 この学校の特性かどうかは知らないが、河内原学園は中等部と高等部があり、そして高等部はたくさんの科に分かれているため、職員室もそれなりの数がある。そして美術担当の藤岡がその席を置く職員室は、第四職員室。特別教室棟の二階にある。そう、またかなりの移動だ。


 体育館を出、体育科棟を迂回、普通科棟の靴箱で靴を履き替え、特別教室棟へ、足音を立てないようにはや歩きで急ぐ。

 この移動だけで七分。筋肉痛確定だな。無事満身創痍で二階に上がり、第四職員室を覗く。藤岡は基本的的に美術準備室にいるから、そこに藤岡の姿はない。そして、他の先生の姿も見当たらない。

 「よし」

 俺は深呼吸をする。身体がこわばり、息を呑む。なんでこんなに緊張してるかって? まあすぐに分かるさ。俺の希望的観測は、外れるのだから。


 「おやおやぁ? そこにおられるのは堀内翔馬くんではありませんかぁ?」


 ほらね!

 

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