最低最悪の毎日の、最高最良の一日⑦

 俺は体育館に向かって、全力疾走する。晴貴の汗臭い体操服を着て。

 ちくしょう。きれいに畳まれてるから新しいのだと思ったのに。あいつ意外とマメなのね。

 

 正直、ズボンの下など、なくても困らない。

 いや、履かなくていいってわけじゃないぞ? 下だけ体操服なのが、バレるか、バレないかって話だ。俺の一日は机と禅問答をして終わるから、授業の挨拶とトイレのときにだけ注意していれば、どうってことなく切り抜けられる。

 

 だが。どこまでが藤岡の計画の内かわからない。方法はともかく、俺を体育館に誘導するのも、藤岡の意かもしれない。

「まったく、今日は走ってばっかだな」

 口に出してみても、馬鹿らしい。この期に及んで青春っぽいなんて思ってしまっているのだから、なおさら。


 すぐに体力が切れ、歩く。巡回中の教頭にバレないように、俺は靴箱へと来ていた。校舎の中からでも体育館へは行けるが、外からのほうがバレにくい。リスクヘッジってやつだ。

 

 外から歩いていくにはなかなか遠い場所なので、その間俺は考えてみる。橘蓮華と、その仲間について。かつて橘蓮華が所属していたという、探偵事務所の所長――確か名前は蓮見――とその宿敵、"怪人二十面相"について。

 それも計画のうちなのか? それなら、あのバーさんが探偵を始めた日が俺の誕生日と同じことが伏線だったのだと、納得はできる。

 だが、所長が殺されたと言っていた。計画といえども、藤岡はそこまでするだろうか。俺が通報する可能性は考慮しなかったのだろうか。それとも後ろめたさ(数回に渡るエロ本の購入)から、通報しないと踏んだのだろうか。

 だめだ、今俺が持つ情報だけでは判断できない。


 そうこうしてるうちに、体育館に着いた。

 一応、中に晴貴しかいないことを確認して――


 


 「いねえ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 

 

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