決め手にかける毎日の、一発かます一日

 頼みの綱が切れてしまった。

「どうしたことか…」

 声に出してみたのは良いものの、深夜の俺の部屋には、当然俺しかいないわけで、返事をするものはいない。ご都合主義的な天の声も、画面の向こうに存在するという神の声も、俺には届かない。希望的観測をしたいのは山々だが、朝山に生命を否定されてしまった俺にできることは、絶望的な天体観測だけだった。

 中学の時に習った星座。もうそんなもの覚えちゃいない。宵の明星?上弦の月?水金地火木土天海?唆る言葉ではあるが、実際空を見上げてみて、わかるものではない。

 俺の人生、わからないことだらけだ。

 この空の星の名前も、自分のことさえも。

 

 少し、いや、夏と比べればかなり冷え込む十一月の夜は、俺の痛みをなかったことにしてくれるには、丁度良かった。


 もう一度、ラインしてみようか。スマホを見ると、時刻は午前三時を回っていた。天体観測には一時間遅刻である。すまない、少年よ。朝山は流石に寝ているだろう。例え男の家に上がり込んでいたとしても。流石にね。待てよこの年齢で上がり込むということは家族ぐるみの付き合いでラブコメで言うと幼馴染属性…?駄目だ勝ち目がないいや俺は何と戦っているんだ青春なんて嘘だ学生生活なんてクソだ落ち着け落ち着け落ち着け!






 これまた中学生時代の遺産の、一万円の、アンプもエフェクターもない、生音のエレキギターをかき鳴らしながら、俺は歌った。この世界への恨みつらみを込めて。将来はロックバンドでも組もうかな。ソロで。



 ギターを引いて心を落ち着かせた俺は、大人しく寝ることにした。明日、正確には今日の、三時間と四十二分後の学校を休むために、風邪でもひこうと思ったのだが、以前その行動をして学校にいる間に体調が悪くなったことを思い出して、やめておいた。





 俺の人生において、基本的に希望的観測はすべて外れる。だが、想定した絶望的観測は必ずと言っていいほど当たる。

 『あまり寝なかったら朝キツイかもな』と、俺は考えた。その思考は全くではないが、的外れだった。

 よく考えてみてほしい。俺の人生が動き出してから今に至るまでの期間は、ニ週間に満たない。

 薄っぺらい華の高校生活を送ってきた俺の人生が、俺の人生観が、このニ週間未満の期間で、がらりと変わってしまったのだ。逆に、なんともない方がおかしかったのだ。



 結論から言うと、知恵熱といったところか、はたまた疲れすぎて免疫がどうたらこうたらなのかで、朝起きたら38.9分の高熱が出ていた。

 無論、学校はお休みだ。

 有給を取っていた父に病院に連れて行ってもらい、諸々の感染症の検査を受け、もれなく陰性がわかった。修学旅行には響かなそうだ。

 

 修学旅行まで残りの日数は一ヶ月もない。それなのにまだ班やその他諸々が決まっていない所が不安になるが、俺がどうにかできることじゃない。

 行き先は……どこだったっけ。確か、ホームルームでは『未定』だったはず。……大丈夫か?うちの学校。


 大嫌いな親愛なる我が河内原学園の将来を憂いながら病床に伏せているのも、中々退屈である。先程から頭痛がしてきたので、本を読んだり、『Analyze』関連の作業をする気にもなれない。シンキング・オーシャンに潜るか、惰眠を貪るかだ。


 






 どうやら数時間前の俺は後者を選んだらしく、気がついたら、時計の針はとっくに終業時刻を指していた。

 麦茶を飲みに一階へ降りる。やっすいパックのお茶だが、キンキンに冷えているので、熱で火照った体にはたまらない。おかわりを何度もしていると、夕飯の買い物から帰ってきた母が、『担任の先生から電話があった』と知らせてくれた。


 修学旅行の班が決まったそうだ。

 神様、明日も休めますように。俺は十字を切った。

 

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