第6話 闇を照らす者

 午後の討伐を終えて帰ってくると、なんとなく、羽が出せそうな気がしてきた。

 昆虫にするか、翼にするか。

 フュージョナーネームも決めなくてはいけない。

 一国一名でかぶってはいけない。外国とかぶる場合は、公式には後から名乗った方は国名を付ける。

 みっちゃんのイーリスはギリギリセーフ。他にアイリスとイリスがいる。

 二人は外国にイーリスがいるので避けた。


 瀧蔵は子供達のような、なりたくて融合者になった訳ではない。

 しかし、自分の出した融合核で融合者になれた子を見て、何かが出来るように感じた。

 元男子高校生の割れ目を見て感じたと言うと、複雑な誤解を生みそうだが。

 名前を決めて、二人に発表した。


「俺のフュージョナーネームはファーロにする」

「なんて意味?」


 みっちゃんは知らないだろう。


「イタリア語の灯台」

「なんでだよ?」


 アズねえはまだ反抗期だ。


「鳥を獲っていれば、なんか、子供達の助けになれそうな気がしてさ。我は闇を照らし導く者、フェアリーライト・ファーロ」

「なんだそりゃ」

「ムダにカッコいい」

「むだが付くのか」

「うん」


 灯台なのにフェアリーライト、に突っ込む知識は二人にはなかった。


「しっかし、それだと羽はどうするんだ。飛行灯台なんてないだろ」

「飛行機用の灯台はあるけどな。そこは名前と切り離して、機能で選ぶ。まあ、結局蜂か渡り鳥か」

「まだそこまでか」

「いや、タランチュラホークかアマツバメ」

「ハチいないよ?」

「タランチュラホークがでかい蜂。タランチュラ獲る狩人バチ。トリトリグモトリバチそんな名前ではない

「なんか狩って暮らすならそっちか」

「うん、そうだな」


 職員室に行って、フュージョナーネームをフェアリーライト・ファーロにして、羽を出してみると言ったら、見物がぞろぞろ訓練室に付いてきた。

 軽く足を開いて腰だめに拳を構えるのは変えない。


変化へんげ! フェアリーライト・ファーロ」


 手足の装甲が完成した後、背中に最強の蜂の羽が生えた。

 色は装甲と同じカナリートルマリン。

 一頻り祝福された後、アズねえが文句を言う。


「さっきのあれは言わないのか」

「あれ毎回は、ないだろ」

「妖怪変化はいいのか」

「そっちは個性だから」

「あれって、なに?」


 元男子高校生松ヶ枝祐利子まつがえゆりこ(本名をひろとしからゆりこに変えた)が聞く。

 みっちゃんがばらしてしまう。


「えっとね、我は闇を照らし導く者、であってる?」

「ああ」


 止めときゃよかったな、と思う瀧蔵であった。


 自分に合う融合核なら、後からでも飛行力を得られる。

 瀧蔵が積極的に小型の鳥を狩り、融合核を売るなら、訓練所としては願ってもない事だった。

 戦闘力の高い飛行能力者は、素材や霊核が高価な大型モンスターを狙い、彼女達から見れば雑魚の鳥は獲らない。

 中型以上の融合核は強化材料にはなるが、最初の融合用にはならないため、新人が増やせない。


 今の瀧蔵には、一つが五百万の融合核は安いとは思われなかった。

 しかし瀧蔵も滅私奉公する気はなく、自分と梓、美智代に合う融合核は売らずに使うつもりである。

 翌日、午前の狩りの見学者に、男が二人混ざっていた。

 瀧蔵は怖い話を思い出してしまった。 

(なんだっけ? 茶碗の中か。あれも元ネタはあっち系なんだよな)

 二人の期待感が物凄い。

 他の子も適合する融合核が欲しいに決まっているのだが、あからさまに違う。 


 そんなに上手くはいかなくて、捕まえて来た鳥から出た風属性の融合核は、名も知らぬ女子高生の物になった。


「なんでだよ、あたしらと一緒に獲ったのから出りゃ、三人で山分けなのに」


 アズねえが文句を言う。


「ビギナーズラックが二回起きたんじゃないかな」


 三人で森に入り、八つ当たりぎみにイタチを狩る。

 防御力が上がっているので、美智代も噛まれても傷一つ付かない

 焦らなければ、しばらくはイタチ狩りでいい。

 三人だと数が多いイタチは逃げない。

 楽に小銭と経験値を稼いで帰る。

 儲けは三等分するが、夕食代は瀧蔵が出す。

 子供二人養ってると思えば、安いものである。


「ねえ、明日からあたしたちも朝からでいいよね」

「ダメ、高校は出ておきなさい」

「えーなんで。行くだけの学校なんていらないよう」

「脳みそも体の一部だから、使わないと動かなくなる。動かすこと自体に意味がある。バレーボールもバスケットも、社会に出てから役に立つ人間はまずいない」

「おっさんがおっさん臭い」


 うだうだ言いながらも仲良く帰る。

 翌日も変わらない一日が始まった。

 男子高校生は増えなかったが、鳥から融合核も出なかった。


「何か、昨日、一昨日と違うことはありませんか」


 指導教官が食い付いてきた。


「いや、二日が変だっただけでしょ。確率的に」


 安いお昼で済ませて、三人でイタチを獲りに行った。

 鳥も獲ったが、融合核は出なかった。

 二日はただの偶然として忘れた頃、八日後に風属性の融合核が出てしまった。

 更に六日後にも火属性が出る。


「何かあります。絶対に」


 付いて来た指導教官だけでなく、訓練所全体が法則を解明しようとし始めた。

 雷属性の飛行能力者は他にもいて、鳥も獲っているが、他の融合者が獲って出るのと、確率は変わらなかった。

 瀧蔵は十羽に一つは出る。解明すると出なくなるのではないかとの、民話的な説も唱えられたが、二か月後に真実が解明された。


 一人で出来るだけ弱らせずに気絶させ、気絶しているモンスターの脳を一撃で破壊すると出やすい。

 初撃で脳を破壊して殺しても意味はない。

 弱らせずに気絶させるのは電撃が最適だった。

 弱い鳥を一撃で気絶させるのが、意外に難しい。

 出る確率があるらしく、どう上手くやっても平均は七回に一回だった。

 最初の二連続は全くの偶然だと思われる。


「週休二日で正月とか夏休みも取るから、一年三十個くらいか。一億五千万円。一年で借金は一億減るから、三年後の保釈で二億払えば解放奴隷だ」

「それでどこ行くんだ」

「好きなダンジョンで稼げる」

「ダンジョン行くなら一緒じゃないの」

「別のモンスターと戦える。RPGでも、経験値稼ぎで手動で同じモンスターと戦ってるのって、飽きるじゃん」

「おっさんゲームするんだ」

「生まれた時から四十過ぎだったわけじゃないぞ」


 しょうもない話をしていると、祐利子が瀧蔵の部屋に入って来た。


「大変よ、トルコにダンジョンが出来たの」

「アルプス造山帯もそこまで行ったか。スペインまで行くと世界中でスタンピードが起きるなんてデマもあるよな」

「一時的な物じゃなく生息可能域が広がったら、日本はほとんど飲み込まれるでしょ」

「いくらフュージョナーがいても、インフラ破壊されたらポストアポカリだな」


 梓が他人事にように言う。


「その内そうなると思って国はフュージョナー増やしてるのよね」

「フュージョナー増えても、自分より弱い男をフュージョナーの女が生殖対象と見ないようなら、妊娠出来ないから、人類全体の数が減ってじり貧になる」

「地震とか火山とか、そのうち絶対来るって判っててもどうしょもないよね」

「税金払ってるから何とかしろってもんじゃないよな」


 対策としては、融合者を増やす以外に思いつかない。

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