第5話 日々の積み重ねが明日のあなたを育てます

 昼食は二人が買取所に来て三人で食べる。

 料金はネズミ大尽の瀧蔵が払う。


「ネズミ獲ってるとイタチが怒るんだよ。教官には許可を取った。今日は俺が森からトレインしてこようと思うんだが」

「出来るんならやってくれよ。鳥待ってるのもかったるい」


 梓が本当にかったるそうに言う。


「たっちゃん、イタチに嚙まれない?」

「それは大丈夫。もう変身してれば噛まれても洗濯ばさみ程度だと思う」

「なんか、早くね?」

「基礎訓練だけ十年やってたようなもんらしい」

「そう言われりゃそうなのか」


 梓が納得したので、美智代は反対しなかった。

 午前中は瀧蔵が北側を狩ったので、三人は防護壁に飛び乗って南を目指す。


「じゃ、ちょっと時間かかるかも知れないけど、待ってて」

「うん、行ってらっしゃい」


 美智代が言った。梓は言ってくれない。


「行ってきます」


 十年言われたことのない言葉だった。

 ちょっとセンチになった気持ちをネズミにぶつけて倒す。

 イタチはネズミの追い込み漁をするために、七、八匹から十五匹程度の群れを作っている。

 一人でネズミを獲っていると、それは俺達のものだとばかりに寄って来る。

 低空で逃げて、昨日と同じ手順で八匹を獲った。


「もう一回出来るんじゃね」

「やるならもっと北に行かないとダメだな。真ん中からダンジョンに行く人の迷惑にならないように」

「飛べるって便利」


 十一匹の群れを殲滅して少し遅くなったので、素材を売って寄り道せずに訓練所に帰った。

 夕食を食べながら打ち合わせをする。


「明日も行けるか」

「タツゾウがだいじょぶならあたしらは行けるが」

「うん。一番大変なのはたっちゃんだよ」

「経験値だか霊力だか入ってるんで、全く疲れはないんだ」

「それは一緒じゃん。でも、明日は最初に行けるとこまで行って戻って来たいが」

「そだね」

「じゃ、そう言うことで」

「ねえ、たっちゃんまだフュージョナーネーム決めないの」

「これと思うのがないんだ。羽出せたら考える」

「どんなのにするんだ。羽もフュージョナーネームに関わらないか」

「名前が決まらないから、羽も出ないのかも知れん」


 本気でその辺を考えようと思っていると、訓練教官がやって来た。


「渋沢さん、明日の午前中は、融合していない訓練生を同行させてもらえませんか。自己責任で行くので、守る必要はありません」


 融合者でなくとも、二年くらい生存可能域で戦っていると、モンスター素材の武器から気の刃を出せる。

 無属性の闘気弾を撃てるようになる者もいる。

 教官は闘気弾を撃てるのが最低条件にある。

 それでも、襲われたら守らなくてはならないし、大勢付いて来られたら、ネズミが逃げる。


「何人くらいです」

「二十人お願いしたいのです。わたしも付いて行きます」

「たっちゃん一人でネズミの霊気吸ったらもったいない?」

「そうですね、安全にパワーレベルングできますから」


 訓練生は森に入らず、外で見ているだけだと言う。

 ネズミのような小型でも、百メートルくらいは有効範囲だと感じる。

 これも仕事の内に入るかと思い、瀧蔵は引き受けた。


 防護壁は中央に人間が通れるだけの一メートル幅の扉が四か所ある。

 変身して防護壁を飛び越し、訓練生が出てくるのを待った。

 一人制服は女物だが男がいた。性同一性障害だと積極的に融合を望む。

 瀧蔵は男だった融合者エインヘリヤルを公言しているので、訓練生も知っている。

 その子の視線がちょっと怖い。憧れなのか嫉妬なのか。


 気にしないようにして、森に入って浅い処でネズミを獲って行く。

 イタチが集まって来るので、その場で倒す。

 足に噛み付かれたが全く無傷で、殴るのに都合が良かった。

 終わってから指導教官に相談した。


「移動しますが、次は少しそちらの近くで倒しましょうか」

「そうして下さい。二、三匹の討ち漏らしなら対処出来ます」


 訓練生にただ見ているだけではなく、戦闘になるかも知れない危機感を持たせて、二回目のネズミ討伐をやったが、イタチは八匹しか来ず、わざわざ森の外の倍以上の集団につっかけるのはいなかった。


「時間、大丈夫なら一羽鳥を獲って来たいんですが」

「どうぞ。ここまで連れて来てくれるんですか」

「電撃使いなので、生きたまま連れて来れると思います。死んじゃったらごめんなさい」


 樹冠の上を跳ねながら飛んで行くと、俺様の縄張りだと文句を言ってきた鳥がいたので、頭に闘気弾を当てる。

 瀧蔵の威力では殴った程度なので、怒って追いかけて来た。

 訓練生の見える処まで引っ張って行き、樹上に止って、突っ込んで来たのに蹴りを見舞った。


「電光キィイックッ」


 言わなくても良いのだが。

 吹っ飛んだ鳥の首筋を掴む。


「電光鷲掴み」


 鷹なのだが。

 子供達の前に持って行き、頭を踏み潰す。

 特に技名はない。


「これで帰ります」

「はい、お疲れさまでした」

「有難う御座いました」掛ける二十。

 

 鳥は梓の炎鷺より小さい火属性の紅鷺だった。

 買取所で解体すると、小の融合核があった。


「どうしますか。能力強化の融合も出来ますが」

「売ります。五百万ですよね」

「はい、源泉済みで手取り五百万円です」

「指定口座にお願いします」

 

 売値の百分の一。生産者価格だ。

 その場で火属性の子を集めて適合検査をして、件の男の子が当たった。

 

「救護室を借ります」


 指導教官が連れて行く。

 残った子の面倒は、瀧蔵が見なくてはいけないようだ。

 子供達に飲み物などを与える。

 泡銭が入ったのを見られているので、遠慮されずに好きなものを頼ませて待った。


 さほど待たずに、指導教官が男子高校生だった子を連れて戻って来た。


「見て下さい、女の子になれました!」


 スカートを捲って見せる。ノーパンである。見慣れたものである。


「よかったね」

「はい、有難う御座いました!」


 他の子供達も希望が広がる。

 梓と美智代がやって来て、みんなでお昼を食べた。

 お祝いだから好きなものを食べてと言ったら、指導教官が一番高い料理を頼んだ。

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