第4話 パーティ戦
美智代の主武器は威力は低いが、高速で命中率の高い風属性の闘気弾「フェアリーショット」
梓は高威力火属性の「フレアグレネード」と手足での打撃も出来る。
技名は勝手に名乗っているだけ。
まだ闘気弾に雷属性が付かない瀧蔵は、手刀から出来るだけ長く鎧皮の剣を伸ばせるようにした。
防護壁に沿って建てられている買取所通称冒険者ギルドには、融合者専用の変身ルームがある。見世物じゃねえよ。
変身して五メートルの幅がある防護壁に飛び乗る。
防護壁の上に立って東を眺めていると、融合核を出すハゲタカより大きな鳥が向かって来た。
飛行力で飛んでいるので、翼長の割に体が大きい。
手刀の先を細い剣にした美智代に二発闘気弾を撃たれて嫌がった処に、梓がもろに頭に当て、逃げ帰ろうとターンしたのを追って飛んだ瀧蔵が、背中に鎧皮の剣先を突き刺す。
少しでも皮膚に刺さっていれば、電撃は通る。
「ぎええ!」
と漫画みたいな悲鳴を上げて落ちた鳥は、頭を思い切り踏まれて絶命した。
「三十キロ以上あるな」
これでも出る融合核は小だ。
収納して帰ろうとした瀧蔵を、クチナガオオイタチと名付けられた、口吻の長いイタチのようなモンスターが数匹追ってきた。
それほど大きく見えないが、胴が長いので大型犬の倍以上の体重がある。
上に飛べば簡単に振り切れるのだが、わざと低空飛行で逃げて追って来させる。
壁際まで来て瀧蔵が垂直に飛び上がると、美智代と梓が射撃を浴びせた。
梓が牽制で地面を撃ち、美智代が毛皮を傷付けないようにヘッドショットする。
手負いになったのを瀧蔵が仕留めた。
二人にはまだ乱戦での直接戦闘は危ないので、やらせない。
五匹獲れて、まずまずの成果だった。
瀧蔵の収納はまだ百キロくらいなので、二人にも収納させる。
獲物は全て軍の買い取り所に提出しなくてはいけない。
収納の中身は、見せようと意識して手を握ると相手が融合者でなくても見せられる。
三人で受け付けのお姉さんに手を握ってもらった。
「フサフサコウ一羽、クチナガオオイタチ五匹ですね。解体しますが、使用希望部位はありますか」
「鳥の融合核が出たら。あとイタチ皮をコンバットブーツ三足分お願いします。錬成師が空いてたら加工も」
「融合核が出たら、ほとんど儲けがなくなりなすよ」
「今日の分はそれでいいです」
融合者は変身だけでなく、収納の中で素材を加工できる能力を持つ者も生まれた。
訓練所支給の靴はあるが、戦闘に適した物なら私物でも構わない。
最初に獲った獲物が靴に出来るなら履いている者は多い。
モンスター革製は装備なので、ある程度サイズが自動調整されて、足に張り付く。
小型モンスターの防御力の低い皮でも、普段履きになら人気がある。
鳥がただの霊核だったので、お小遣いにはなった。
戦闘で霊力を吸収したせいか、それほど空腹を感じないので、ちょっと良い喫茶店でデザートと飲み物だけ注文した。
「たっちゃんつおい」
「おう、これ一月くらい続ければ、入ダン許可出るんじゃね」
「一月掛かるか。こんなに都合よく鳥やイタチが来てくれるのか、ってのもあるが」
「もうちょっと強くなったら、森に行ってもいいんじゃね。みんな飛べるから許可が出るだろ」
万が一負傷しても、飛べるなら地上型のモンスターからは逃げられる。
ダンジョン周囲の飛行型は集団はいない。こちらが複数なら襲ってこない。
ご休息を終えて買取所に行ったら、靴が出来ていた。
美智代が嬉しそうに言う。
「お揃いだね」
「うん、みっちゃんのヘッドショットのお陰だ。初日で三人分手に入ったのは良かったな。これ凄いよな。鎧皮の装甲と同じで全く履いてる感じがない」
「融合者じゃなくても履けるから、緊急変身で盗まれるんだぜ。サイズもほぼ気にしないでいいし」
「モンスター製品はGPS付けられないんだよな」
「ああ、それと、変身する前に脱がないと壊れるぜ」
「リアルな変身ヒーローは色々めんどくさいな」
訓練所に戻って結果を報告したら、十日は森に入らないように言われた。
予想より瀧蔵の戦闘力が高いので、全体の戦闘力と思い込むと二人が危ない。
その辺りの話をしたいと瀧蔵だけ指導教官に呼ばれた。
「今日の事に問題はないのですが、二人は実戦訓練もしていますが、少人数での狩りは初めてだったので、何かあったらケアしてあげて下さい」
「はい、まだ子供ですよね」
「そうなんですが、野分さんは、同性愛の傾向がみられます。その辺りの要求があるかもしいれないのですが、拒否しないで頂けますか」
「こっちはかまいませんが。法的にはいいんですか」
「融合者同士は合意の上なら年齢は関係ありません」
「なら、大丈夫です」
瀧蔵は能動的な性欲が無くなっているように感じていたが、性的なものを嫌っているわけではない。
夕食後、空戦起動に慣れるために、フライトシミュレーターとトランポリンで訓練する。
寝る時間になったら、美智代が枕を持ってやって来た。
「たっちゃん、一緒に寝て」
「ああ、いいけど。中身おっさんだが遺伝子レベルで女だからな」
「うん、セーフ」
なりたかったものになったとは言え、中学生が親元を離れてモンスター相手に実戦をしているのだから、精神的な疲労は相当なものだろうと思う。
「ふっふっふっ、これでこの乳はワシのもんじゃ」
「エロ代官かよ」
思ったほど深刻なものではないのかもしれない。
翌日から、午前中は瀧蔵だけ森の周辺で小型モンスターを狩った。
小さいので駆除し切れない、モンスターの食物連鎖の底辺、カワウソサイズの耳の小さいネズミ面の、イワシネズミが定着してしまっている。
瀧蔵の無属性の闘気弾でも一撃で倒せる。
カワウソが毛皮になるので、このネズミ面も皮になる。
この程度でも生身で駆除しようとすると、44マグナム辺りが必要になるので、国が融合者を育てておきたいのが良くわかる。
今のところ所謂スタンピードが起きてはいないが、ダンジョンの増加は止まっていても、生存可能域はじわじわ広がっている。
いずれ地球全体が生存可能域になるのは、予想ではなく予定のレベルだ。
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