第3話 変身シーンって練習するのか
瀧蔵は先ず、変身自体を訓練しなければならない。
一人でやると不測の事態が起きる可能性が全くないとは言い切れないので、広い訓練室の端でやる。
変身の練習は当然全裸でする。お手本を見せると言ってみっちゃんとアズねえが付いて来た。
他人の変身を見るとイメージがしやすいらしい。
ちなみに融合者は首から下の体毛がない。勿論髭も生えない。
男性ホルモンに関係するのではないかと言われているが、確証はない。
女にも男性ホルモンを製造する臓器はある。
瀧蔵が羽織っていたローブを脱ぐと、 お手本を見せる二人も脱ぐ。銭湯と同じで回りも全裸が多い。
一応訓練室の外を裸で歩くのは禁止されている。
「たっちゃんのオッパイでっかあい。突っついちゃお」
みっちゃんに横パイを突っつかれる。
「なんでだよ、男だったんだろ」
アズねえには文句を言われた。
「胸囲は一メートル越えてた。ミニゴリラってあだ名だった。そんな事より、変身のお手本を見せてくれ」
「うん、いくよう。ちぇえんじ、フェアリーナイト・イーリス」
みっちゃんが天を仰ぐバレリーナみたいな仕草をして、薄緑のキラキラしたハイレグの競泳水着に包まれる。肩紐はない。
後ろは腰までがら空きの背中に、ガラス細工の細い蜂の羽が生え、両手両足の肘と膝までは薄い装甲に覆われた。
実は本人のイメージがはっきりしていれば、変身ポーズもフレーズもいらない。
美智代の融合した
羽はなくても飛べるが、あれば揚力補助になり、スタビライザーとして空戦機動がやり易い。
がら空きの背中の防御にもなっている。
フェアリーナイトは、融合核が小の小型の飛行モンスターの融合者が名乗るが好みでしかない。
イーリスはプライバシー保護のためのフュージョナーネームだ。
瀧蔵も身長的にフェアリーナイトが適切と思われるが、大柄が多いワルキュリエを勝手に名乗ってもいい。
「とりあえず、タツもやってみ」
「イメージだけの問題なんだよな」
瀧蔵は四股立ちになって拳を握り、下段で交差させて、腰だめに引いた。
「
貼り付ける水着程度に、乳房と股間が黄色い膜で覆われた。
「無理に変なこと言ってそれか」
「出来たのを褒めてくれよ。新人は褒めて育てるもんだ」
「新人教育、こっちはまだされる側だ」
「じゃ、新人教育の仕方を教育してやる」
「おっさん仕事何だったんだ」
「特殊危険地域宿泊施設の掃除スタッフ。一応主任」
「四十過ぎで主任ってどうなんだよ」
「三十過ぎで途中入社だったから。それ以上は聞くな。言ってて悲しくなる」
しょうもない事を言っている内に変身(?)が解けた。
「三分持たんか」
「パワレベで霊気量上げればいいんだが、手袋とブーツくらい出せんと、実戦には連れて行けんのじゃ」
「途中でキャラが変わってるぞ。誰なんだよ」
「特にモデルはないんじゃ」
「今のジジババ大概二十世紀後半生まれだぞ。儂とかじゃなんて言わんだろ」
「そんなのどうでもいいが、股開いて変身すんのか」
「パンツは脱がないんじゃないの」
「そうだが、緊急変身で人前でやるのか」
「変か。アズねえはどんなの」
梓は軽く足を交差させ、股間は両手を重ねて隠す。
「変身、エルフィンナイト・パシオネ」
朱色の結晶が股間から胸までを塗るように上がり、両手を開くと肘と膝までが装甲に包まれる。
背中には赤い燕の翼が生える。
梓の融合した核は小の上、モンスターは中型火属性の
「オーソドックスって感じだな。指が一本ずつ覆われるから手は開いた方がいいか」
瀧蔵は足を延ばして自然体で立ち、腰だめに拳を構えた。
「変化、飛妖精」
言ってから拳を開く。
今度は貼る水着だけでなく、手袋が装着された。
「よし、一歩前進」
「ま、さっきよりはまし」
「鎧皮が出せるのは判ったから、二人は自分の訓練をしてくれ。ありがとう」
二人と別れた瀧蔵は、消えないうちに手袋で軽くサンドバッグ を打ってみた。
拳が痛くないだけでなく、パンチが速い。
この見た目でも変身していると言える。
「霊力量増やすために、壁際で走り込みでもするか」
鎧皮が消えた瀧蔵は、訓練所指定のジャージに着替えて外出許可を取りに行った。
「学校の勉強」が必要ない瀧蔵は、午前中は防護壁の近くをジョギングし、午後は変身時間の延長と鎧皮の面積の拡大を図った。
一週間で、バトルグローブとコンバットブーツを着けたグラビアアイドルみたいになった。
格闘戦の出来る瀧蔵は、教官に連れられて防護壁周辺の弱いモンスター狩りにも参加した。
収納も使えるようになり、着替えや非常食を持っていられる。
少し飛べるようにもなった。長めに跳躍している程度なので、みっちゃんにキチキチバッタと言われた。
「羽出せた方がいいのか。長距離だと出す分以上の省エネにもなるんだよな」
「うん。たっちゃんがちゃんと飛べるようになったら、三人ならダンジョン行ける」
「羽が出せるまでガッコ休んで付き合ってもいいぜ」
「いや、それは遠慮しとく」
同じことをすればいいだけなので、二人が付いて来る必要はない。
二人とも「学校の勉強」が嫌なだけである。
梓は適合する核が見つからず融合が遅れ、美智代は若過ぎて戦闘慣れしていない。
丁度良い具合に、飛行型で民間人としては戦闘力のある瀧蔵が現れたのである。
それから三日後に瀧蔵は膝と肘までを装甲化した。
まだ翼は出せないが、跳躍以上には飛べるようにもなった。
短時間なら梓と空中で格闘戦をやっても勝てる。
十年間生存可能域で暮らしてきたので、十代の融合者の成長が参考にならないようだった。
三人での、防護壁の東側に棲み付いてしまった小型モンスターの駆除の申請が通った。
行政側としては、融合者にスタンピード的な災害の防戦力だけでなく、ダンジョンの中に入り素材や霊核を持ち帰れる、所謂冒険者になれるのを期待していた。
普通人も何も持たず全裸ならダンジョンに入れるが、生身で入るのは自殺行為。
モンスターの素材を錬成した革鎧や武器は持ち込めるが、こちらも政府が厳重に管理している。
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