第7話 すぐそこにない危機
いつ来るか判らない世界的破滅より、日常の問題が今の瀧蔵にはあった。
瀧蔵を男と見て性的な対象にしている祐利子と、女と見て性的な対象にしている美智代は仲が悪いのに、二人ともいつも瀧蔵の部屋にいる。梓もいるが。
梓と祐利子はお互いを性的な対象にしていないせいか、仲は悪くない。
瀧蔵が祐利子を拒否しないのは、彼女が別の男子高校生を排除してくれるからである。
瀧蔵の融合核は性同一性障害者に適応しやすいと言う、全く科学的根拠がないうわさが広まって、日本中から融合希望者の男子高校生が集まってきている。男子中学生もいる。
融合者の体は酒に酔わない。プライバシーも日常的な楽しみもない。
生存可能域の拡大は確認されているので、融合核の確保は止められない。
三か月、四半期で出た融合核は六個。内二個が男子高校生を救った。融合希望者の男女比を考えると、統計的根拠が出来そうな異様に高い確率である。
火属性の一つが美智代に合ったので、攻撃力が強化された。
四人ならダンジョンに行っても大丈夫だろうと許可が出て、午後はダンジョンに入れるようになった。
「火鼠がいたらタイマン張らせてくれ」
「意味は判るが、今はシングるって言うんだぜ」
「そっち直ぐに死語になりそう」
細身の狼の群れを空中から一方的に殲滅して、今日のノルマは終了。
瀧蔵だけ樹冠を飛び、三人は下から樹上性の肉食獣を警戒する。
闘気弾に雷属性が載るようになったので、ヘッドショットで気絶させられる。
もう少し威力が上がると死なせてしまうので、手加減攻撃を覚えないといけない。
「あそこ、ネズミ」
美智代の指す方に火鼠がいた。
瀧蔵は独り飛んで行き、雷属性の闘気弾を頭に撃ち込んだ。
痛いだけなので、大ネズミは怒って木を駆け上って来た。
木より高く飛ぶと、ネズミも跳んだが届かない。闘気弾を撃ち下げると飛び出してくる。
頂点を見切って、三回目に雷撃を纏わせたトーキックを目に叩き込む。
落ちたネズミに闘気弾を当てると、前足を振った。
四本とも足と言われた瀧蔵の太い右腕をもぎ取った一撃も、空振りでは意味がない。
焦らずに、動かなくなるまで闘気弾を浴びせた。
「お前がやったわけじゃないが」
動かなくなったネズミを収納して、瀧蔵は仲間に合流した。
鳥も二羽獲れた。二羽とも風属性のアッシュレイヴン。ハイイロワタリガラス。欲張らずに帰る。
解体すると、融合核が一つ出た。四人の適合を試したが、合わなかった。
「では、こちらに頂きます」
訓練生に持って行くために受け取った訓練教官が、固まった。
「どうしました」
「これ、わたし、適合してます、買い取り申請、出さなきゃ」
受け付けで何かじたばたした後、救護員に連れて行かれた。
暫くして女子高生に若返って戻って来た。
「教官は買取に優遇とかあるんですか」
「いいえ、五年間の廓勤めですよ」
「その言い方はいいんですか」
「戦闘奴隷と双璧の通称ですから。融合者の性格見てるんです。保護観察処分みたいなもんですね。お金で払うと、公安の監視が付くんですよ」
「それは言っちゃダメでしょ」
その後訓練教官は訓練生に「ずるーい」とか「ひどーい」とか言われている。
買取所での夕食後、訓練教官は訓練室で変身した。
「チェンジ・フェアリーレンジャー・シュライケ」
ほぼ梓と同じだが、手の開き具合が広い。
一回目で手袋とブーツまで装備している。
「やっぱり教官は違いますね。シュライケってなんです?」
「イタリア語のモズです」
「高機動のイメージですね」
十日後、見て欲しいと言われて見せられた変身では、背中に扇形の翼が広がった。
少しでも瀧蔵に鳥を多く獲らせようと、午前中のイタチ退治はシュライケがやって、別の教官が生徒を守る。
瀧蔵は鳥を二羽獲って一旦買取所に戻って三人と合流、午後はダンジョンの日程になった。
四羽獲れるなら二日に一つ融合核が出る。
二十八歳のシュライケ、
半年で出たのは六十八、その内四人に風属性一つ、梓はさらに火属性が一つが適合した。
瀧蔵は四十三歳になった。テロメアが無くなるまで不老なのではないかとも推測されている融合者に、年齢を気にする者は少ないが、他人の子供の世話をしている子供のいない瀧蔵は気になる。
「自分の子が欲しいと、生まないと駄目か。無理だろうな」
融合者の体は生理がない。一種の刺激性排卵で、男を本気で愛さないと体が妊娠可能状態にならない。
元は男だったのが判っているので、祐利子ですら抱けない。
エインヘリヤルの認識がある者が、男になれないかの研究はされている。
モンスターは雌雄がある。X染色体が欠けているのではなく、変容して雄になっている。
雄から出た融合核でも、人間の男は女体化する。
「火鼠にやられた時点で終わっていたと言えば、そうなんだけど」
瀧蔵が覇気がないと、みんな心配してくれる。しかし、言ってもどうなる事でもないと思っていた。
希望は三峰馨子がもたらした。
「中米の某国で、雌しかいない哺乳類のモンスターが見つかったんですよ。まだ、情報の出し渋りをされていて、詳細が判明していないのですけど」
「どういう事です」
「ほかの哺乳類型モンスターと違って、雄も見た目が雌なんだそうです。このモンスターから融合核が出たら、エインヘリヤルが男性機能を持てるかも知れません。融合者同士で生殖が可能になれば、地球全体が生存可能域になっても、滅亡は防げます」
「どうなるんでしょう、体の構造」
「判りませんけど、人間が翼なしでも飛べるようになってるんですから、卵巣になった精巣がもう一度精巣に戻るくらい、出来ないとも思えません」
「そうですね。でもなんでこんな情報を出し渋るんでしょう。人類の存亡に関わる話じゃないですか」
「確実に滅ぶのが見えてる訳じゃないですから、有利な取引をしようとしてるんです。そのモンスターを獲る人員を他国に出させたいんですね。あそこは人口が少ないので、あんまり融合者がいませんから」
「全くのガセの可能性もありますか」
「あるでしょうね。他国の優秀な融合者を帰化させたいだけの可能性も」
結局中米の小国は強国の圧に屈して、情報を公開した。
ヴイーヴルと名付けられたそれは、見た目は背中に翼のある四本足のトカゲで、乳房が一対の胎生の哺乳類だった。
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