第41話 作戦会議
「あの、ちょっとお時間いいですか?」
プレジィールから出てきたその人に、俺は声をかけた。30代くらいの男は不審そうに振り向いたけど、俺の顔を見て「ああ」と納得した。
「ここで働いてる子だよね。何かな」
私服姿だったけど、俺だって分かってもらえてよかった。
「来週の日曜日、『まゆ』の生誕祭をやることになったんです。本人には内緒で」
「へぇ……それは面白そうだね」
男はニヤッと笑った。
「それでどんなことをしたら喜ぶか、意見を聞きたいんですけど」
「そういう事なら、場所を変えようか」
男に連れられて、近くのファミレスに入った。ランチの時間は過ぎているからか店内はがらんとしていて、2人なのに4人掛けのソファ席へ案内された。
好きなものを頼んでいいと言われて俺がメニューを眺めている間、男はずっとスマホを操作していた。
俺が注文したハンバーグステーキが届いた頃、俺達のテーブルに男がぞろぞろとやってきた。
「おお、よく来たな」
「この人たちは……?」
知らない大人の男達に囲まれている状況は流石にちょっと威圧感がある。
「まゆのサプライズ生誕祭の話をしたら集まった連中だよ。作戦会議に来たいって言う奴はもっといたんだけど、あんまり集めても周りの迷惑になるからなぁ」
いつの間にかここは作戦会議の場になっていたらしい。
集まった7人の男達は、おじさんもいれば俺と同い年くらいの奴もいる。確かにまゆが接客しているところを見たことがあった。
「それじゃあみんな、座ってくれ」
「隣、失礼しまーす」
そう言って俺の隣に男が無遠慮にぐいぐいと攻めてくる。4人がけのソファ席に男が6人で押し込まれているこの状況は、なかなかに異様だ。残りの3人は隣のソファ席に移動した。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。俺はキヨだ」
「鳥屋野です」
まゆのところへ一番通っている人に声をかけようと思ったのに、そのツテでまさかこんなに集まるとは思わなかった。
「鳥屋野君か。まずは生誕祭の企画に俺たちも声をかけてくれてありがとう。どんなことをしたらまゆが喜ぶか、意見を聞きたいってことだったよね?」
「はい。他のメンバーは特別な衣装やメニューを用意するって言ってたんですけど、俺は何をしたらいいのか何も思いつかなくて」
俺の言葉に男たちは顔を緩ませた。
「特別な衣装ってまゆちゃん喜びそうだな。可愛い服はテンション上がるって言ってたし」
「限定メニューを俺たちでたくさん頼んだら、まゆちゃん喜んでくれるかな」
深恋たちが準備しているものはお客にも反応が良さそうだ。
「まゆのイメージとか、好きなものとか、何でもいいのでみなさんの知ってることを教えてくれませんか?」
「まゆちゃんと言えば可愛いものだよなぁ」
「裁縫が趣味で、この前はフリフリのポーチを作ったって見せてくれたな」
「何それ可愛い」
裁縫も出来るのか。どれだけハイスペックなんだ。
「そう言えば、最近アジサイを観に行ったって言ってたな」
「今度バラ園に行くって言ってた」
「寝る前に花言葉の本を読んでるって」
男達はハッとした表情で顔を見合わせると、一斉に俺の方を向いた。
「……じゃあ、みんなで花をプレゼントしましょうか」
「おー!」と歓声が沸く。ひとまず、大枠は決まった。
「どんな花がいいと思いますか?」
俺の言葉に男達は首を捻った。
「ちっちゃくて可愛い花、とか……?」
「ピンクとか水色とかのイメージかな」
「可憐なまゆちゃんにぴったりな花がいいよな」
可憐、ね……俺達の前ではちょっと口が悪くて、肝の据わった奴なんだけどな。
それからもう少し話して今日は解散になった。詳細は汐姉とも相談が必要だから、キヨさんを通してまた連絡すると伝えた。
「必ず最高の生誕祭にしような」
別れ際、キヨさんが言った。
「そうですね」
これだけたくさんの人が皇のことを大事に思っている。そのことが皇に伝わるといいと思った。
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