第42話 不自然

 俺の企画へ汐姉からOKが出て、準備を進めることになった。さらに、まゆのファン達と話したことで誕生会のプレゼントも何となくのイメージが固まった。


 閉店後、汐姉が出してくれたまかないを食べていると、メイド服から制服に着替えた3人が奥の部屋から戻ってきた。


「学校近くに出る不審者、まだ捕まってないみたいですね」

「目撃情報が出てる辺りって帰りに通るんだよ。最近は警察の人が見回りしてくれてるみたい」

 姫野が言った。


 俺と姫野の家は高校から徒歩15分圏内だから、目撃されている場所ももちろんよく知っている。


「2人とも気を付けて帰るのよ。特に晶は亮太に送ってもらうように」

 そう言うと、皇はさっさと出口へ向かった。


「じゃあ、お疲れ様」


 パタンと扉が閉まる。今までだったら、バイトの後も深恋や姫野の宿題の世話を焼いてから帰るのに。ここ数日はずっとそうだ。


「生誕祭の準備はどうですか? 衣装はだいぶ進んだんですよ」

「メニューもいい感じ。亮太と深恋も味見してよ」


 皇が早く帰ってくれるおかげもあって、生誕祭の準備は着々と進んでいる。皇がこの企画を知って、空気を読んで早く帰っているのかとも思ったけど誰も漏らしてはいないという。


「なあ、2人は皇が最近どうして早く帰っているのか聞いてるか?」

 俺の言葉に2人は顔を見合わせた。


「用事ですかって聞いたら『ちょっとね』って、あまり言いたくないみたいでした」

「それ以上は聞いてない」

「そうか……」


 俺はともかく深恋達にも言っていないのか。皇は閉店後の時間を大事にしているみたいに見えたから、よっぽどなことじゃなければ2人には話しているだろう。


 俺の考えすぎなのかもしれない。でも最近の皇は不自然な感じがした。


「悪い、俺も今日は帰るよ」

 バッグを掴んで店を出た。


 


 とっくに日は落ちていて、辺りは夜の色をしている。駅に向かいながら辺りを見回していると、大きな交差点のところで皇の姿を捉えた。気づかれないように一定の距離を保って後ろをついて行く。


 あれ、これって……もしかして俺、ストーカーなのでは……?


 いや、いやいや! 様子がいつもと違うバイト仲間を心配しているだけで、別にやましいことは全くないし! でも、皇にバレたら「気持ち悪いんだけど!?」って罵倒されそうだなぁ……


 そんなことを考えているうちに駅に着いた。早く帰るのは家の用事でもあるのかもしれない。やっぱり俺の考えすぎか。


 しかし、皇は家とは反対方向の電車に乗り込んだ。


 そっちは繁華街がある方だ。こんな遅い時間に繁華街で一体何を……?

 俺は慌てて同じ電車に飛び乗った。


 そう言えば最近、お金を貯めてるって言ってた気がする。シフトも先月より増やしているみたいだったし、もしかすると繁華街で別のバイトを……?


 皇が降りたのは繫華街ではなく、その何駅か手前にある高校の最寄り駅だった。


 繁華街じゃなかったのはホッとしたけど、何でこんな時間に高校の最寄り駅へ? さっき最終下校時間も過ぎたところだ。他に目的の場所でもあるのか?


 皇が駅のトイレに入ったから改札前の柱に隠れて待つ。ここまで着いてきたんだから、真相を見届けるまでは帰るわけにいかない。

 しばらくして、皇は出てきた。


「え……?」


 思わず声が漏れた。皇は髪が30cmほど伸びていた。


 ウィッグってことだよな……? バッグだってさっきまで持っていたものと一緒だし、別人ではないはずだ。


 わざわざ高校の最寄り駅まで移動して見た目を変えるのは、一体何の意味があるんだ。


 皇の後について歩いて行くと、駅から遠ざかるほどに街灯は少なくなっていく。元々学生がメインで使ってる道だから、部活終わりらしき生徒を数人見かけた程度で人通りは少ない。こんな時間に女子が一人で出歩くなんて危ないじゃないか。


 そして、俺は気づいた。学校の周辺で、夜道に、長い髪の女子高生。不審者情報に載っていた被害者の傾向と同じだ。


「何をしてるんだよ、あいつは……」


 深恋達には気を付けろと言っておいて、自分は真逆のことをしている。文句を言ってやろうと足を速めた時、皇の背後に人影が入り込んだ――


 俺は黒づくめの男の腕を後ろから捻り上げ、そのまま地面に押し倒した。音で気づいたのか、皇が後ろを振り返る。


「え……?」

「こいつは押さえておくから、早く警察に電話してくれ!」

「あ、え……分かった!」


 皇が電話を掛けると、不審者情報で見回り中だったこともあり、すぐに警官がやってきた。警察に捕まったことで観念したのか、男は今までの犯行を自供した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る