第31話 寄り道

 展示会場を出て、大きく伸びをした。姫野に楽しんでもらうつもりが随分楽しんでしまった。


「じゃあ目的は果たせたし、ぼちぼち帰るか」

「ねえ、少し寄り道していかない?」

 そう言って姫野は道の反対側にある広場を指さした。

「それは、いいけど……」




 レンガ畳の広場の中心には大きな噴水があって、水しぶきがキラキラと反射している。

 噴水の前で姫野は立ち止まった。そしてバッグから小さな紙袋を取り出す。


「これ、私からのプレゼント。今日のお礼」

「え? ありがとう」

 袋を開けると、出てきたのは桃李の両手剣をモチーフにしたキーホルダーだった。

「私もお揃いで買ったんだ」


 そう言う姫野の手には、レイチェルのライフルをモチーフにしたキーホルダーが握られていた。作中の桃李とレイチェルみたいに、俺達も最高の仲間っていう感じがする。


「これを見たらきっと今日のこと思い出すでしょ」

「ああ。大切にするよ」

「亮太は今日一日、私と過ごしてどうだった?」

 姫野は急にそんなことを言った。


「すごく楽しかったよ。今度はBlu-rayも観ような」

「うん、そうだね。でもそれだけ?」

「え?」


 すると、姫野は俺の右手を取った。突然の感触に鼓動が早くなる。


「亮太は私とキスしても何も感じない?」

 そう言って、試すような視線を向ける。

「え……?」


 そして、俺の手の甲にキスした。


「はぁっ!?」

 急な展開に顔が熱い。

 姫野は上目遣いで俺を見上げた。


「私はドキドキしてるよ。確かめてみる?」

「た、確かめるって……?」


 姫野は掴んだ俺の手を自分の方へ引き寄せた。


「胸に手を当てたら鼓動が早いこと、分かるんじゃない?」

「ばっ、バカなの!?」

 俺の様子を見て、姫野はパッと手を離した。


「ごめんね、びっくりさせて。でも私には必要なことだったんだ」

「必要なこと?」

「うん。亮太とは大切な友達で終わらせたくないって、分かったから」

 そう言って、心なしか少し赤くなった顔で笑った。


 その表情はカッコいいと噂される「王子」なんかじゃなくて、守ってあげたくなるような「姫」みたいだと、そう思った。


「じゃあまた学校でね」

 姫野はそう言い残すと、背を向けて歩いて行った。

「……え?」

 茫然としたまま、しばらくその場を動けなかった。


 

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