第29話 週末、午後1時、駅前
「姫野、あの、ちょっと話があるんだけど……」
例の件で資金も手に入った。あとは姫野の予定を聞くだけなんだけど、なんか変に緊張する。
「うん、なに?」
「今週末って暇? 遊びに行かない?」
これでもし断られたら……メンタルがやられるかもしれない。
俺の言葉に姫野はふっと笑った。
「いいよ。ちょうど空いてたんだ」
その返事を聞いて胸を撫で下ろした。
「それじゃあ、白山駅に集合で」
週末、午後1時、駅前。
ただ友達と遊ぶだけなのに無駄にソワソワする。今日までの過程が長すぎたせいだ。目的地までの地図、もう一回確認しておこう。
「亮太」
その声に顔を上げると、姫野が立っていた。白のタートルネックに薄手のチェックシャツを羽織り、耳元にはシルバーのイヤーカフが光っている。俺と1cmしか変わらないのに、ハイウエストのスキニーパンツが足の長さを際立たせているのがズルい。
周りの女子がこっちをチラチラと見ているのが分かる。もちろん視線の先は俺じゃない。
「待たせたね」
「俺もさっき着いたとこだよ。じゃあ、行こうか」
地図を確認していたおかげで、目的の場所にはスムーズに到着した。
目の前の大きなビルを見て、姫野は首を傾げた。
「ここが目的地?」
「そうだよ。ほら」
俺が右の方を指差す。そこには大きなパネルが立っていた。
「え、うそ……ソークロの展示会!?」
バッグから二枚のチケットを取り出して見せる。
「チケット買っておいた。好きかと思って」
「早く行こ!」
そう言って俺の腕を掴んで強引に歩き出す。
「おい、入り口はそっちじゃない!」
始まって早々から心配だ。でも、よかった。ちゃんと喜んでもらえて。
『ソードクロスワールド』は、
原作はラノベだがアニメ化もされていて、今回の展示会はアニメ化10周年を記念して開催されたものだった。
入り口を抜けると、桃李たち5人の描きおろし等身大パネルが出迎えた。姫野はお目当てのパネルに一目散に歩いて行った。
「はぁ……レイチェル、カッコいい……!」
レイチェルはロングのメイド服に身を包んだ戦闘狂。本名は
「好きだよな、レイチェル」
「そういう亮太だって、桃李のこと好きでしょ」
「まあ、男の子はやっぱり剣が好きなんで」
黒のハイネックトレーナーがトレードマークの桃李は、後ろに背負った両手剣で敵を派手に倒す姿が爽快だ。
「レイチェルってさ、初めて見た時はメイド服で銃をぶん回してる姿に衝撃を受けたんだよね。でも後からちゃんと話を読んだら、ずっと人に求められる生き方をしてきたけど、しがらみを打ち破って自分らしく生きることを選んだってところがすごくカッコいいんだよ」
レイチェルをキラキラした目で見つめて話すその横顔は、他の誰にも見せたくないくらい綺麗だ。
……ん、綺麗ってなんだよ。いや、悪いわけじゃないけど。友達に綺麗って思うか? 普通。
前に高岸が姫野のことを「可愛い」とか言うから、なんか変なフィルターがかかっているのかもしれない。
「なあ、前に高岸とアニメの話したことあるか?」
「え、なんで高岸君? この前スマホ拾ってもらったんだけど、ケースに入ってるソークロのカードを見て「好きなの?」って言われたからちょっと話しただけ。わざわざ聞いてくるぐらいだからソークロのこと知ってるのかと思ったのに、そうじゃなかったみたい」
「ああ、そうか……」
その話を聞いてちょっとホッとした自分がいた。
「ほら、先も早く見に行こ」
そう言って俺に笑いかける。
「お、おう……」
無駄に鼓動が早くなるのがうっとうしかった。
展示会を進んでいくと、作中のワンシーンをイメージした記念撮影スペースが現れた。
「写真撮ってやるから、レイチェルの横に並んだら?」
「ありがと」
そう言って姫野は駆け足で位置についた。改めて見ると、レイチェルって誰かに似ているような気がする。
「それじゃあ、撮るぞ」
姫野がレイチェルと同じポーズをとって横に並ぶ。カッコいいポーズはほんと絵になるんだよな。
何枚か撮って、出来栄えを姫野に見せた。どうやら満足らしい。
「この写真、学校の女子に見せたら高値で売買されるぞ」
「ふっ、何それ」
いや、マジで。
「メイド服着てライフル担いだらレイチェルに似そうだよな。レイチェルも背高いし。コスプレっていうの? あとは黒髪ロングのウィッグさえあれば……」
あ、分かった。レイチェルに似てると思ったのはキラだったんだ。
「亮太?」
「ああ、悪い。まあウィッグなんてなくても姫野は似合うと思うよ」
というか何着ても似合うだろうからな。美形は羨ましい。
「ばか……」
何か気に障ったのか、姫野はそっぽを向いてしまった。
「写真も撮れたし、次行くか」
「亮太も桃李と写真撮ってあげようか?」
「いや、俺はいいや」
自分の写真なんてわざわざ見返したいものでもないし。
「じゃあ一緒に撮ろうよ」
そう言って俺の手を取ると、引っ張ってパネルの前まで連れて行く。そう言えば、2人で写真を撮るのなんて初めてかもしれない。
姫野はスマホを内カメにして、俺に体を寄せた。
「もっと寄らないと桃李たち全員入らない」
「さすがに全員は無理じゃないか?」
「やだ。全員入る角度が見つかるまで帰らない」
「やだって……こんな駄々こねる王子見せらんないよ」
「今は王子じゃないし。亮太しかいないんだからいいでしょ」
それなら、もう二度と他の奴には見せないでくれよ。
「……ああ、そうだな」
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