第12話 痕跡
日が沈みだすと、場内外灯をつけるという屋内の用事を思い出す。それは破滅以前の日課だ。
何者にも破壊されない、雨風雷にも動じない病人形が夜になると屋内に入りたがる理由は、いざなってみてもよくわからない。屋内が外より暗くても夜になると屋内の用事を思い出させられる。
様々な警報が出たままになった中央監視室で、コンソールの灯りを摂取しながら朝を待つ。光量は微々たる物なので、コンソールの前に座るよう誘導はされない。私は小さな自由意思を発揮し私の席に座る。以前は記憶を保持するために日記を書いていたが、書くこともないし気力もない。
人間の私の意識が存在することに飽きて無関心になるまでこんな日々が続くのだろうか。この先何もないだろう。もう諦めようか。
そう思ったとき、足元の引き出しが半開きなのに気がついた。風化して勝手に開くほどの時間が経ったのかと思ったが、ハンドルのラッチを引くとロックのバネは効いてる。誰かが開けたのだ。ここには配給の缶詰を溜めてある。あんなに有機物を貪った病人形だが、栄養補給が必須だったわけではないようで食欲はない。缶詰のような金属に覆われた物はなおのこと興味がわかない。私も誰もこの引き出しには用がない。
生存者の多くは缶切りの使い方を知らないか慣れていないので、配給品はプルタブのついていない物を選ぶようにしていた。引き出しは缶詰がいくつも置かれていたが、缶詰2つ分くらいの空白がある。そこにあったのはたしかプルタブのついたスープ缶だ。それも、あの忌々しい、油壺の説明会の日に配給を受け「もう要らないのにな」と放り込んだ記憶がある。
つまり、これを持ち出したのは私じゃない。しかも缶切りを使わずに開けられる物を選んでいる。
生存者がいる。私たちの目を盗んで、隠れ住んでいるんだと判明した瞬間だった。
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