第11話 管理責任者
油壺の目論見では、生存者はあの放送におかしなところがあると気づいて逃げ出すはずだった。確かに今の我々はかなり頭が悪くなっている。それでもいくらか残ってる知能でもわかることだが、何の準備もなく出ていくことを生存者に要求するのは処刑にも等しい。
九頭類浄水場に人々が集ったのは、ここなら感染者から身を隠して自給自足できると踏んでだ。私もその希望を汲んで人々を迎え入れた。
それは逆に、ここから出て行った生存者には自給自足の手段がないということだ。水や電気どころか食糧も燃料もない廃墟でどう生きろと。
当初、全員が感染したと思い、この見落としは杞憂だとみなした。生存者がいないのなら誰も荒野に追放されていない。ただでさえ物を考えるのが難しくなっているのに、いもしない人間の心配などできない。
病人形になって疲労、眠気、空腹、喉の渇きなどあらゆる渇望感がなくなったが、それはこの思考してる私と生理機能に連絡がないだけで、人形の方は少なくとも光と水を欲する。
しなくてはならないことを思い出すと、その用事は強い光のある方へある方へと流れていく。
ああまただな。フロックの沈降具合を見に急速濾過池に来ている。昨日の雨で濁水が流入したという理由付きだ。
一体それはいつのことだ。コミニュティができて今まで、取水ポンプさえ動かしてないじゃないか。補助用だった緩速濾過池だけでいいと。このカラカラに乾いた池の淵で何を見ようというんだ。
日光浴がしたいのなら、そう言ってくれればいい。なぜ私の認識を歪めて目的を果たそうとするんだ。そうは不満を抱いても、やはりここに用事があるような気がしてならない一方、理屈を語る頭の方は他に用事がない。今度は緩速濾過池でゴミ取りをしないと。使ってないからゴミが溜まる一方だ。いいや違うぞ。今は緩速濾過池は通水しているんだ。やめろ。用事がある気で釣るんじゃない。水が欲しいなら欲しいと言えというのだ。物も頼めない愚かな人形め。
ことが起きたのは夜になってからだった。
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