第10話 観測

昆虫や鳥は空を飛ぶことができる。

空を飛べる動物はどこで眠るだろうか。

当然、地面で眠る。

卵はどこで産むだろうか。

当然、地面で産む。

だから空を飛べる動物も地面から自由にはなれない。人類をはるかに上廻る、地球生命史上最悪の災害に地面が覆われれば、空から降りてきたとたんの巻き込まれる。

だから、破滅後の空には何もいない。


雲があれば雨が降る。

雨が降れば植物がある。

植物があれば動物がいる。

だから、曇天の下、地も空も無人の砂漠が広がっているこの光景は、多分この惑星では40億年来ほとんどなかったことだろう。


破滅以前なら、ここは大阪のあたりになるのだろうか。


西条寺が地下遺跡に潜ってる間、東雲は外で人影が付近を通らないか観測する役目だ。今はそれがPZだったとしてもインタビューしたいほど地平線まで誰もいない。

どうやらこの砂丘の下には地下鉄の遺跡があるらしい。指先に金属を蒸着させて強制消化を阻害していても、そうではない部分が触れて遺物を消化する恐れがある。西条寺はそういうことに気が利く方で、閉所や暗所が苦手な東雲は留守番を買って出ていた。


宇宙開発盛りしはるか昔、2つの巨大な勢力がしのぎを削っていた。宇宙船の開発は秘密だった。空を飛翔する、政府が存在を公にしないその物体が観測される周辺では、それが異星人の船だと言われた。しかし、秘密を貫きたい政府は、あなたたちが見たのは気球だ、飛行機だ、特殊な雲だと説明したそうだ。


破滅後、鳥も人工物もいない、太陽すら見えない曇天、そこに漂うあの光体を、今はなき政府だったらなんと説明するのだろうか。


砂丘の穴から西条寺が出てきた。

空の一点を見つめる東雲の隣に立ち、

同じ方を見た。


「あれ、飛んでますよね」

「飛んでるね」

「なんなんです」

「知らないね」

「東雲さんが知らないって初めて聞いた」

「僕が知らないことはいっぱいあるよ。

君みたいに英語わかんないし」

「降りてくるんですかね」

「あれに乗ってるのが、”フロル星人“だったら降りて来ないだろうね」

「“フロル星人”以外がいるみたいに言う」

「PZや”フロル星人“は破滅以前は非常識な存在なんでね。そんな物が実在するならそれ以外の何かが空を飛んでても不思議じゃないよ」

「あんなに高い。私たちが見えるんですかね」

「きっと僕たちは今お互いを見てる」


見るべきものは見たのか、光体は重力に逆らって上昇していき、雲の向こうに見えなくなった。


それ以来、2人は光体を見ていない。

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