第6話 無線放送

こちらは

防疫担当の

油壺です


本日の入場者血液検査の結果

521人中

521人が

当選いたしました


油壺も

当選いたしました


当選できなかった方は

よく自覚して

がんばりましょう


これより

当選説明会を

中央講堂で行います

みなさま

必ず参加してください


当選できなかった

自覚のある方は

当選者の

迷惑に

ならないようにしましょう


「感染していない自覚があるなら誰にも気取られないように逃げろ」などと直裁に言えば「人形の私」か他の人形に対策を取られるかもしれない。


人間の知能があれば前半の意味不明な話題にもしかすると恐怖さえ覚えるかもしれないが、語感しか認識できないなら違和感すらない。


説明会には全員参加しないといけない。「当選できなかった自覚」なんて「私」は持っていない。自覚がない方は迷惑にならないようにすればいい。それは「私」以外の誰かだ。


恐らくそう判断するはずだ。賭けだが。


この放送で生存者は危機を察して逃げ出し、人形は中央会議室に集まる。生存者が誰なのか、人間の私でさえ知らないのだから人形の私が知るよしもない。


この方法には穴があり、奇妙な放送に対して私を心配するか、耄碌したことを嘲笑するか、あるいは人形ぐらい馬鹿な生存者(1人2人心当たりがある)が人形に連れられて会議室に来てしまうかもしれない。


その時、生存者は「あの放送は意味が分からない」というはずだ。その時は、認識を改竄される前に「逃げろ」と叫べばいい。


こうして、200人収容できる講堂には、コミニュティの総数に等しい100人余りが集合した。元から512人もいない。

悲しいかな、全員いるような気がする。いない人間がいるように見えない。


「全員揃っているかな。ここは当選者しかいないはずだ。大丈夫かな。私が言ってることの意味がわかる人は手を上げて」


こんなに人形に取り囲まれていては、手を上げない者がいても手遅れだろう。

覚悟してはいたが全員が手を上げている。


「そうか。みんな私が言ってることの意味がわかったようだな。そうかそうか。」

私はわからないぞ、という嫌味を飲み込み、痒くもない目を擦り、一拍置く。


「みんなに集まってもらったのは他でもない。残念なお知らせだが、このコミニュティの人間は絶滅した」

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