第3話 血液検査
その時は、萩谷の兄弟の血液検査を行っていた。病禍以前、弟の方が運送で、兄の方がホームセンターで働いていたんだったか。兄の方は人当たりに問題はなかったが、弟の方が癖者だった。普段から愛想は良くないが、馬鹿にされている、疑われていると感じると相手を無視して指示に従わなくなる。あれでどうやって仕事をしていたのか不思議だ。自分への疑念そのものの血液検査も全く協力しようとしないので、兄に方法を教えて弟の採血をやらせる始末だった。
血小板、赤血球、白血球、異常らしい異常はない。検査といっても浄水場の顕微鏡を使うだけだ。顕微鏡を覗く時、洗面台が背になる。今日も異常なしとパソコンに記録し、電源を落とす。今何時だ。ああ、パソコン閉じちゃった。段取りが悪いと自分に悪態をつき、壁掛け時計を見た。
違和感があった。
文字盤の樹脂ケースが反射する、背後の風景に何かが足りない。
振り返って洗面台を見るが、そこには血液サンプルを入れた試験管が萩谷兄弟2人分、2つのサンプルが並んでいるだけだ。
文字盤に反射されたぼんやりした半透明な風景を見る。試験管の色が明るい。そこには二酸化炭素を吸った赤黒い血液が溜まっているはずだ。
引き出しから手鏡を取り出して、振り返らずに背後を見る。変わらない。血液サンプルがあるだけだ。今日は萩谷の弟の採血が上手くいかなかったとかで兄の分1本だけだ。
1本だと。今日私は2人分の検査をしなかったか。顕微鏡から外したスライドグラスはどうだ。流しにある。もう洗ったんだったな。
それはいつのことだ。洗うタイミングなどあったか。
事実は電子カルテにある。もう一度立ち上げてファイルを開く。
カルテには萩谷の兄1人分の異常なし、備考には弟の方が採血失敗と書いてある。
疲れてるんだ。2人分の血液サンプルが見えたのが気のせいなんだ。鏡に写ったり写らなかったりするなんて、ドラキュラじゃあるまいに。怪現象なんか起きてないと自分を納得させるために、PCに背を向け、鏡越しに電子カルテを見た。
そこには鏡像で字が反転した内容が2人分書いてある。
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