第2話 内科医

私は油壺権太。内視鏡内科で特に大腸の方に詳しかった医師だ。出雲医学院大学を12年に卒業。12年でだったか。この年数がなにを意味するのかはもうわからない。覚えていられるうちに書いておく。生年月日も家族関係もわからなくなってる。


ことの顛末はこうだ。


人形病の蔓延以降、散り散りになっていた生存者は、この九頭類浄水場に集住した。太陽光、小水力、火力と発電機を複数備え、大地震がきても清浄な水道水を延々と県民の皆様に供給できるとか県知事がほざいていた県の用水供給浄水場だ。あのムカつく声とヘラヘラした顔ばかり覚えている。


元々100万人以上の家庭に水を賄っていた施設なのだから、集住した100人程度なら切り詰めれば電気と水は数年心配する必要がない。

だが人間、パンのみに生きているわけではないにしてもパンは必要だ。


浄水場の施設内で作れる農作物にも限度があるので、食糧調達として施設外に出る必要がある。腕に自信のある若者たちが調達班を結成してこの仕事にあたった。


人形病はいつどのように感染するのかがわかっていない。発病初期と慢性期に区別がつくのかさえよくわからない。

しかし、あれだけ何でも食べる、それも恐らく口器が人間としての口には無いと推定されるほど身体が改造されているのだ。体液に証拠がないはずがない。

なので、双方にとってとんでもなく面倒なのだが、調達班の再入場時は血液検査をすることにした。


病人形(やみにんぎょう)の血液が採取されるとどうなるのかは見当もつかないが、調達班の血液はいつも同じ性状だった。


先日のミーティングで我々の絶滅が判明したと報告したが、今でも病人形の血液がどんな性状なのかはわからない。今でもだ。

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