波乱⑧

『だから、もし、藍良さんが山岸と一緒に居るんだったらマズいかなって。一応、童には言っておかないとって』


「‥なんだよ、それ」


どう言う事だよ。

意味わかんねーよ。


『ちゃんと伝えたからね。あ、遊園地の場所は—--』


早口で今いる場所を伝えて金木は通話を切った。


「兄貴、何かありやしたか」


俺は半ば放心状態のまま顔だけを哲也くんに向けた。


「なんか、変な電話が掛かってきて」


機械的に先ほどの内容を伝える。

すると険しい顔つきで哲也くんが「許せねぇ」と拳を震わせた。


「今直ぐ、あいつをとっ捕まえやしょう」


小さい体でズンズンと進んでいく。

俺は「ま、まった!」とその体を両手で押さえた。


「なにするの!」


「だから、捕まえてぶん殴るんですよ」


睨みを効かせたその瞳の奥は怒りの炎で満ちている。


「何もそこまで、いや、そもそも確証がないんだよ。あくまで、噂だ」


「火のないところに何とやら、ですよ兄貴。清廉潔白に見えるやつこそ怪しいと経験が言ってやす」


なんの、どんな経験から来るモノだ。


「だったら、こうしよう。俺たちは山岸から目を離さない。それでもし、怪しい動きをしたら捕まえる」


そういうと哲也くんは息を深く吐いた。


「‥仕方ねぇ。確かに、現行犯で捕まえないと逃げられやすね。ですが、姉御が危険に晒される前に止めます」


「‥わかってる」


何で初対面の人間相手にそこまで感情を昂らせる事が出来るのか。


でも、金木の言う事が本当なら黙って見てるわけにもいかない。


俺と哲也くんは、人混みを掻き分けて急いで観覧車に向かった。


他のアトラクションと違って、観覧車はまだ空いていた。

アイと山岸も目に見える位置にいる。


哲也くんは山岸を睨み、今にも飛びかかりそうだ。


「哲也くん。まだ、何も分かってないからね」


「兄貴は、その友人がわざわざ嘘の連絡をしてきたって言うんですか」


「そうは言わないよ。ただ、情報だけに流されるのは危険だ」


その言葉に、哲也くんは驚いたように目を見開いた。

そして、何か考えるような仕草をし、頭を少し抑える。


「どうかした?」


「いえ、なんか今、映像が‥」


映像?まさか。


「それって、どんな!」


俺は哲也くんの肩を掴んだ。

哲也くんは困ったように「いや、なんか、工場?大人数、いや、すいやせん。消えました」


生前の、テツヤとしての記憶。


工場?大人数‥駄目だ。そんな情報じゃ何もわからない。


「あっ、兄貴。姉御とクソ野郎が乗りやすぜ」


山岸がアイの手を引いて観覧車に乗り込む。


大丈夫だろうか。


俺たちも三組乗った後に案内され観覧車に乗り込んだ。

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