波乱⑥
ピロン、とメッセージが届く音が鳴る。
『今、この場所にいます』
周りのアトラクションに気を取られつつも、どうにか指定された場所に着いた。
店内は混んでいたのか、2人用のテラス席に向かい合って座っている。
アイは俯きながら、ストローで飲み物を飲んでおり、山岸は笑顔を作り身振り手振りで何かを伝えようとしているようだ。
「近づきやす?」
「そうだな。さり気なく」
俺と哲也君は後ろへと回り込み声が聞こえる所まで移動する。
「それでさ、一組のソイツが可笑しくてさぁ」
「あ、あははは」
明らかに乾いた笑いをするアイ。それを感じ取った山岸は困った顔で申し訳なさそうにごめん、と謝った。
「俺と居てもつまんないよね」
苦笑いしながらそう言う山岸にアイは「い、いえ!そんなことは」と直ぐに否定する。
「そう?でもさっきから全然喋らないからさ」
「それは、その、山岸くんが格好いいからで」
はぁ?
俺はつい顔をアイの方へ向けた。
何言ってんだよ。
山岸は満更でもなさそうに「嬉しいなぁ」なんて頬を染めている。
今にも身を乗り出しそうになっている俺を哲也くんの小さい手が服の裾を引っ張って止めている。
「俺さ、やっぱり—‐」と山岸が何かを言いかけると同時にスマホの着信音が鳴った。
山岸がスマホを手に取り、一瞬顔つきが変わった。
「ちょっとごめんね」
そう言って席を立ち、小走りでその場を離れる。
気のせいだろうか。顔が強張った気がしたが。いや、今はそんなことよりも。
「おい」
俺はアイの肩を軽く叩いた。
ビクッと反応し、後ろを振り向く。
「ご、ご主人様~」
うっすら目に涙を溜めたアイは俺に抱きつこうとするのでそれを両手で制した。
「あっ、哲也くんも」
「へい、兄貴が気になるって言うんで未熟者ながらついてきやした」
押忍!と力強く言いながら両腕を構えた。
それを見て「かわいい~」と頭を撫でながら呑気にいっている。
「違う違う。さっきの台詞、どう言うつもりだよ」
俺が聞くと首を傾げる。
「格好良いだのなんだの」
「‥あ、言いました!」
両手でパチンと音を鳴らし楽しそうに笑う。
言いましたじゃなくて‥。
「姉御。兄貴は嫉妬してるんでさぁ」
「君の語尾はどんどんおかしくなってきているね。そんなんじゃなくて」
「え!いやだぁ。ご主人様の方が格好良いですよ」
「だからそういう軽はずみなのをやめろっ」
キス顔でこちらに顔を向けてくるので俺は顔を背けた。頬が赤くなっているのは自分でもわかっている。
駄目だ、頭では目の前にいるのが藍良ではないのは分かっている。でもどうしても顔がそうなのでそのギャップに頭が追いつかない。
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