波乱③

暫くして、勢いよく扉が開けられた。


「ねぇ、どういうこと?」


顔は笑顔を作っているが、指の骨をポキポキと鳴らしながら梅雨葉が入ってくる。


「ど、どういうことって?」


「舞さん、泣いてるんだけど」


「いや、それはさ‥あいつが無茶な要求するから」


「へぇ。無茶な要求ねぇ。言って見せてよ」


肩をコキコキと鳴らし、近づいてくる。


「いや、同じ学年の奴にデートに誘われたらしいんだけど、それについて来いって言うんだ。それは相手にも失礼だろ?」


「なんでついて来いって言ってきたのかの理由は分かっているの?」


それは、アイが不安だからの一言に限るが‥。


「一緒に同行しろって事じゃなくて、見守ってほしいって言う事でしょ」


「だからそれもおかしな話なんだよなぁ‥って、俺は思うんだけど」


「分かるよ?そんな事、舞さんも分かってる」


いや、多分分かってない


「でも不安だから言ってきてるんでしょ。だから付いてきてほしくて、頼ってきたんでしょ?それなのに、男と会う約束をしただなんて。舞さんよりそんなにそっちの方が大切なんだ」


男っていうか、幼児というか。

大切といえば大切だが。


「結局お兄ちゃんは嫉妬してるんでしょ。楽しそうにデートをしているところを見たくないんだよ」


「嫉妬?馬鹿言うな。そんな事するか」


第一、アイの方も好きとかそういう話ではない。


単に断れなかっただけなのだ。


「じゃあ良いじゃん。保護者的立場から行けば」


「それは過保護だって言うんだよ」


「お兄ちゃんみたいなのを放任っていうの。いい?よーく、考えてみてよ。舞さん記憶を少し無くしてるんでしょ?心配じゃないの?」


それを言われちゃ、確かに、心配ではあるが。


「行かない理由が他にあるなら言ってみてよ」


「それは‥」


よく考える。だがまぁ、そこまで行きなくない理由が思い浮かばない。


テツヤくんと会うから、は一つの理由かも知れないが、別日を設定したらいいだけだし、遊園地デートは午後からだと言っていたから午前中に会えば問題ない。


「無いよね?そしたら行ってきて」


「いやでも、金が‥」


「なっさけないな!金くらい私が払ってあげるわよ!」


なんと気前がいい。

でも、これも言い訳だ。金が無いわけではない。


「い・く・よ・ね?」


ゆっくり、威圧的に言ってくる梅雨葉。

「分かったよ」と力無く答える。


「良かったぁ。お兄ちゃんの骨を折らずに済んで!じゃあ、舞さんに伝えてくるね!悲しんで泣いてたから」


骨を折る?

全く、妹ジョークには聞いて呆れる。カタカタと震えているのは昔の古傷が痛んだからであって、今の発言を聞いたからでは無い。


数分後、勢いよくアイが入ってきて、そのまま俺にダイブした。


「ありがとうございます、ご主人様!」


その顔は晴々としており、あまりの眩しさに「‥おん」と顔を逸らした。





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