波乱①

「アニキ、ゆっくり話したいですが、今日はこのままお暇させていただきます。なにぶん、コイツのお袋が心配しているようなので」


コイツ、といって自分の胸を指差した。


「あ、あぁ。でも、キミ‥」


「キミなんてよして下さい。テツヤって呼んで下さいよ」


子供らしい高い声でニヒルに笑うテツヤ。言動と声色のギャップがえげつないな。


救急車のサイレンの音が近づいてきて、公園の前で止まった。


「また後日、といいたい所ですが、連絡手段が‥お、コイツ、携帯持ってますね。小せぇなぁ」


ポケットからキッズフォンを取り出し、それを見て苦笑いをする。


「番号は‥これだな。アニキ、今から言う番号を控えてもらってもいいですか?」


「え?あ、あぁ」


俺は少年が言う電話番号をスマホに入力する。


「一度かけてもらえます?」


言われるがまま俺が通話ボタンを押すと、「お、来ましたね。そしたら登録しておきます」と手慣れた様子でキッズフォンを操作している。


「テツヤ、何しているの。まだ動いちゃ駄目じゃない」


心配した様子の母親が少年の手を引く。

そして俺がいることに気づいた母親は「‥知り合い?」と少年に聞いた。


「うん!ずっと前から一緒に遊んでくれているお兄ちゃん」


先ほどの口調から一変する。

しかしその説明は母親の不信感を増長させるだけだった。


「ずっと前って‥あの、失礼ですが」


まるで不審者を見るような目つき。それはそうだろう。高校生がまだ小学校にも上がっていないような子供と前から遊んでいるなんて、不審者以外の何者でもない。


「えーっと‥童と申します。テツヤ君とは、よく公園で遊んでいて‥」


駄目だ、上手く言葉が見つからない。


たすけてくれ、アイ。

その頼みの綱のアイも目が泳ぎ挙動不審な態度であたふたしている。


「そ、そうですか。それじゃあ、また」


「じゃーねー、お兄ちゃん!」


これが演技とは到底思えないくらい自然体そのもので、その親子は救急車に乗って去っていった。


念の為に検査をして貰うんだろう。

しかし、本当にこれで良かったのか?


やらずに後悔より、やって後悔の方がいいとはよく聞くが、俺は自分の選択に自信がなかった。


少なくとも、このままでは二人の人生が終わってしまうことになる。


仮に、あのままでは命が無くなっていたと仮定しても、このまま憑依した魂が成仏できなかったら一緒のことだ。


急に、重たいバトンを渡されたようなプレッシャーが肩にかかる。


「はぁ、緊張しましたぁ」


と横のアイがその場にへたり込んだ。


いつの間にか、辺りには誰もいなくなっている。さっき俺の首元を持ち上げた男性が遠目で俺の方を見ていたが、やがて頭を軽く下げて公園を出ていった。


今のは、謝罪か?


「あの子、助かって良かったですね」


アイが純粋な笑顔でそう言ってくる。

俺はその言葉に返事をすることができなかった。

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