悩み⑥

学校が終わり、昼食を食べてから暫く近所を見て回る事にした。


出来れば家から半径5km以内の範囲は回りたい。

憑依アプリにあったその距離に意味がある、かもしれない。


俺とアイは自転車で散策する。

昔、藍良とよく来ていた場所を中心に回る。


公園、幼稚園、小学校から中学校。


家は近づきたくないらしく、そのルートは避ける。

一時間ほど漕いだ所で一旦止まった。


「どうだ?何か思い出したりする?」


「うーん。いや、ビビっとくる感じがしないですね」


風で煽られた頭を手で直しながらそう言った。


「ビビっとくる感じなのか?」


「イメージです!」


そうですか。


「さて、一通り回ったけど‥どうしようかな」


アイは何故藍良に憑依出来たのか。


名前が似てるから?

いやいや、それだとアイと名のつく人間は山ほどいるだろう。


そもそも、何故鴨居は俺にこのアプリを渡した?


あいつが言うように、確かにアイに頼めば『あんなことや、こんなこと』は望めるのかもしれない。

でも、あいつはそれをしなかった。


いや、もしかして、逆なのではないか。

しなかったではなく、


憑依対象者が見つからず、消すことも出来ないのであれば、ただ決まった時間にアラームと共に謎の脅迫メールが来る迷惑アプリだ。


てことは、憑依対象者は誰でもいいわけではない。


何か、決まった条件があるはずなんだ。

もう一人の魂。こいつの憑依対象者が見つかれば‥。


俺の心の願いが通じたのか、スマホからあの時と同じ、サイレンのようなアラームが鳴った。


『ヴゥー、ヴゥー、エマージェンシー!!!エマージェンシー!!!ヴゥー、ヴゥー、ヒーイズ、アバウト、トゥー、ダイ!!!ヘルプ、ヒム』


「きゃっ!なんですか?」


近くのアイが飛び跳ねる。

俺はえーあいちゃっとから送られてくる位置情報を確認する。


ここから2km先の公園。


「行くぞ!」


「え?行くって、どこにですかー!」


アイの叫び声を無視して、俺は目的地に向かって全力で漕いだ。


---

--

-


約10分かからずにその公園に着いた。


「テツヤ!テツヤー!」


母親の叫び声。その周りを囲むように何人もの人が集まっている。


「ご、ご主人様‥」


アイが青ざめた顔で人だかりを見ている。

口元を抑えた手は震えていた。


「大丈夫。きっと、大丈夫だ」


俺は人混みに近づいていった。

よく見ると、大人だけではなく小さな子供も何人もいた。


中には泣きじゃくりながら、テツヤくん、と呼ぶ子もいる。


ジャングルジムの下。ここから、落ちたのか?


そのテツヤと呼ばれている子は、ぐったりとしている。側にいるのは母親と、若い男性。


「救急車は呼んだんですよね?」


そう聞かれ頷く母親。


「誰か、氷を!袋に入れた氷を持ってきてくれ」


この状況で、撮れるのか‥。

でも、やるしかない。

このままでは、この子は死ぬ運命にあるのだから。



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