悩み④

扉を開けると、そこはもう別世界でした。


窓際の席で本を読む女子生徒。

あくびをしながら眠たそうに目を擦る男子生徒。

立ち話をしている男女二人。


ガヤガヤ、ワイワイ。

にこやかな笑い声。


あぁ、いいなぁ。


すごく、キラキラしています。


「まーいっ!」


後ろから誰かに抱きしめられました。

この感覚、私、好きです!


「なーに黄昏てんの?」


髪を一つにまとめた女子生徒。

あっ、目の下に薄らとメイクをしてますね。

その小柄な子は、楽しそうに私に話しかけます。でも、彼女が誰なのか、分かりません。


「もー、今日も綺麗なんだからぁ。チューしてあげる!」


その子は唇を尖らせてきます。

私もキスは好きです!

同じようにそうすると、その子は一瞬驚いてから「やだ、いつからそんな返し方身につけたのよ!新しいって!」とまた私に抱きついてきます。


何が何だか、分かりません‥。


その後も、クラスの色々な子達が私に話しかけてきます。


世間話から、恋愛話まで。

色々なことを「ねぇ聞いて!」と話してくれます。


‥違いますね。私じゃなくて、舞ちゃんに。


本当、羨ましいです。


ねぇ、舞ちゃん。


あなたはご主人様を始めとして、こんなにも大勢に愛されているのに、なんでなんかしたんですか?


---

--

-


始業式が無事に終わった。


担任の尾崎先生が長くなったおかげで、予定していた時間より大分遅れた。


アイの奴、ちゃんと待っているかな。


一人ソワソワしながら、俺は終礼が終わるのを待つ。


「それじゃあまた明日。今日提出物を忘れたものは必ず持ってくるように。受験生だからな。気を引き締めていけ」


日直の号令がなり、俺は席を立ち上がる。


「随分慌ててるけど、どうしたの?」


後ろの席の金木が聞いてくる。


「ちょっと約束があるんだ」


「ふーん。藍良さんでしょ?」


「‥なんでわかる?」


「分かりやすいからよ。なに、付き合ってんの?」


そんなわけあるか。俺は簡単に答え、教室を出て隣のクラスへ向かった。



クラスのドアは開いており、中には数人の生徒しかいない。


「なぁ、藍良って帰った?」


「藍良?えーっと、あぁ、さっき二組の山岸に呼ばれてどっか行ったよ」


山岸?誰だそれ。


「山岸って言ったら、バスケ部の元キャプテンだね」


いつの間にか鞄を手に持った金木が立っていた。


「もしかして告白でもされてんじゃないの?」


「ま、まさかぁ?」


「何焦ってんのよ。おかしな話じゃないでしょ。藍良さん、モテるからね。告白されなかった理由は、男サイドが自信が無いからよ」


「何の自信だよ」


「釣り合わないって思っているんでしょ?振られるのが見えているのに告白する人なんていないでしょ。今日はバスケ部も昼から練習らしいから、そこじゃない?」


じゃあ、頑張ってねぇと金木は他人事のように去って行く。


薄情な奴。


俺は駆け足で体育館へ向かった。

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