悩み③

「もうすぐ学校に着くけど、約束は覚えてる?」


「はい!分からない事は答えず誤魔化す。誤魔化し方は‥あぁ、頭がちょっと、です!」


「それは冗談だから間違っても言わないように。分からない事は、とにかく答えないように。笑って誤魔化したりすれば、多分、いやきっと大丈夫」


「なるほど、笑って誤魔化す。分かりました!」


本当かな‥。心配になってきた。


そうこうしているうちに、学校の門まで来る。


変に緊張してきた。やっぱり、学校を休ませた方が良かった?

でも、危険を犯してでも、何かきっかけが欲しい。


大丈夫だ、きっと大事にはならない、筈。


「おはよう、二人とは珍しいな」


正門の前で、健康的に日焼けした体育教師兼陸上部顧問の小川が俺とアイを見て目を丸くする。


「ええ、まぁ」


俺が軽く答えると、それを無視してアイの前に立った。


「藍良、大会結果は残念だったな。だが、まだ推薦の話が無くなったわけではないから、考えておいてくれ。部活動にも顔を出してくれたら嬉しい」


俺はドキドキしながらアイの返答を待つ。


「‥あぁ、頭が」


駄目だ、コイツ。


「頭?頭が痛いのか?保健室行くか?」


「あ、先生大丈夫です!朝から元気いっぱいでしたので!な、な?」


俺が強く頷くと、アイはハッとした顔で頷き、小川に向かって笑顔で頷いた。


「そうか。まぁ、無理はするなよ。お前一人の身体じゃないんだから」


そう言ってまた門の方へ戻って行く。


「ちょっと!本当に俺の話聞いてた?」


「ご、ごめんなさい。本当、気をつけます」


何度もペコペコ頭を下げる。


大丈夫、かなぁ。


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-


久しぶりに入る教室は、とても懐かしい気がした。


クラス内の見知った顔が何人か笑顔で手を振ってくる。

俺もぎこちなさを感じる笑顔で振り返す。


「童!頼みがある!」


後ろからいきなり声をかけられた。


えっと、確か名前は‥そう、田中。


そんなに知った仲でもないこのクラスメイトが俺に話しかける理由は一つしかない。


「おー、久しぶり。どうした?」


「あのさ、夏休みの宿題なんだけどさ、終わった?」


そう、自分が困った時。


「‥終わってるに決まってんだろ?なに、田中やってないの?」


「いやぁ、実はさぁ」


頭を掻きながら俺の鞄をチラッと見る。


「有料な。一時間千円」


「高っ!一時間以内なら」


「無料。ほら」


俺は鞄の中から課題を渡す。恩にきる!と両手を合わせた田中は、本当に親しい友人の元へ駆け寄った。


なんだ、そいつに見せてもらえよ。と思ったが、どうやらその友人も終わってないようだ。


冗談を言わないと、少しやりきれない。


「お人よし」


また背後から頭を軽く何かで叩かれた。


振り返ると、金木がキツイ目つきで俺を睨んでいた。手には丸めた教科書。


「痛い」


「誤魔化すな。気づいてる?今、利用されたんだよ」


「利用って、そんな言い方」


「嫌な事は嫌。駄目なものは駄目。そうやって断らないと、どんどん利用されていくよ」


まるで小学生に教えるかのように正論を言う金木。


「ちゃんと嫌な事は嫌だって言ってるよ」


「どうだかなぁ。私は、童の無欲な所が気に入ってるけど、それも程度ってもんがあるからねぇ」


無欲って、これまた失礼な。俺にだって欲くらいあるさ。


「童ー!ちょっと頼みがあってさ」


今度担任の尾崎先生が話しかけてきた。


「ちょっと先生!いい加減にしてください」


「なんで金木が怒ってるんだ?」


「腹が立ってるからです!何でもかんでも童に頼って!」


「いや、それは、そうだが」


まだ新米教師の尾崎先生は、困ったように頬をかく。


「童を頼るんなら私に言ってください!」


「お前は保護者か」


助けを求めるように俺の顔を見てくるが、俺は肩をすくめた。


別に、いいのに。

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