終わりと始まり⑫
俺は、このアプリであんなコトやこんなコトが出来ると思ってたのに。
そう、例えば向かいの家の前で楽しそうに電話をしている大学生くらいのお姉さん。
このアプリを使えば、そんな見ず知らずのお姉さんにもあんなことや—・・・。
いや、まてよ?
例えば今からあのお姉さんの写真を撮る。それを強制憑依アプリにアップロードすると、どうなる?
試しにやってみるか。どうせ、インチキアプリだろうし。
‥いや馬鹿!俺の馬鹿!
盗撮はれっきとした犯罪だ。
それにもし。万が一、いや、億が一このアプリが本物なら、一人の人生を捻じ曲げる事になる。
つまり、結論としては‥。
このアプリによって、俺は毎日4時51分と17時32分のタイミングを教えてくれる、電波的な友達が二人も出来たということだ。
なんて素晴らしい!友達が二人も出来たなんて。
自虐的に笑っていると、目の前の女子大生風のお姉さんは怪訝そうな目をしながら家の中へと入っていった。
その反応、正解ですよ。
『ヴゥー、ヴゥー、エマージェンシー!!!エマージェンシー!!!ヴゥー、ヴゥー、シーイズ、アバウト、トゥー、ダイ!!!ヘルプ、ハー』
「な、なに?あばうと、ダイ?」
けたたましいアラーム音が再度鳴り響く。
憑依アプリを開くと、その音は止み、代わりにひょういえーあいちゃっとが自動的に開かれた。
『ここから4.1km先に憑依対象者がいます』
「え?え?」
俺の疑問を他所に、憑依AIは地図の位置情報を送ってくる。
その位置情報をタップすると、地図アプリにページが飛ぶ。
ここって‥あっ。
送られてきた住所は、昔、藍良とよく遊んだ神河河川という名称の河川敷だった。
「どういうことだよ」
まともな整理も出来ていない中で、AIはどんどんと位置情報を送ってくる。
それは、段々河川敷から離れて行き、方向としてはこちら側に向かってきていた。
「な、なんだよ」
俺は、訳もわからず走り出していた。
その地図で示された場所。
何故自分でもこんな行動をとっているのか分からないが、頭の中では騒がしい音と共に聞こえてきたダイとヘルプの言葉が繰り返し流れていた。
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最後に送られてきた位置情報は、総合病院だった。
「‥病院?」
息も切れ切れに、とりあえず中に入る。
広い病院内の受付は慌しかった。
一人のナースが電話を取り合っている。
もう一人のナースが受付にいる60代くらいの女性に話を聞いている。
その女性はとても心配そうに何かを話している。俺は、何かに導かれるようにして近くによった。
「え、ええ。散歩をしていると、急に大きな音がして。それで、人が、流されてきたから」
心臓が早鐘を打つ。
何だ。何でこんなに嫌な予感がするんだ。
「そうですか。ありがとうございます」
初老の女性は一礼し、その場を離れた。
「あ、あの」
俺はその女性に話しかける。
振り向いた女性の顔は、疲労しきっていた。
「何か、あったんですか?」
おかしいぞ、俺。
なんでそんなこと聞いてるんだ。俺には、関係ない話だろ。
「え?あ、あぁ。実はね、女の子が川にね‥」
ドクン、ドクン、と心臓の音が耳まで聞こえてくるようだ。手には冷や汗が。
俺は、写真フォルダから中学の卒業式の時に撮ったツーショットの写真を見せる。
「その女の子って」
その写真を見て、初老の女性は目を開いた。
俺は、息をするのを忘れていた。
その写真には、半目になった不細工な俺と、まだ髪が長かった頃の藍良が映っていた。
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