終わりと始まり⑪

俺は震える手で『どちら様ですか?』と打つが、4時52分になったタイミングで返事は来なくなった。


「本当に、勘弁してくれよ」


憑依アプリを長押する。【アンインストールしますか?】と確認の案内が出てくる。

答えはもちろん、YES。


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呪いや幽霊なんていう非科学的な物は今まで信じていなかった。

金縛りや不幸の手紙、トイレの花子さん等々。昔学校で流行り、俺も一時期恐怖を覚えたそれ等は、実際には存在しない事が分かったから。


小学生から中学生まで、「童、助けてくれよ!」と相談されて存在しないことは経験済みなのでそれは間違いない。


裏返せば、もしそれ等を体験してしまったら信じるしかない。


「...まじか」


悪夢にうなされて起きた夏休み最後の日。


俺のスマホには、昨日消したはずの強制憑依アプリがまたインストールされていた。


「どうすればいいんだよ、こんな不吉な物」


時刻は13時。頭を掻きむしりながら、俺は一階のリビングへと降りる。


食卓にはパンとサラダがラップをされて置いてあり、手紙が二枚添えてあった。


『海苔の佃煮を塗ったパンとレタスを作ったので食べるように。お残しは許しまへんで』


何でパンにそんな異色のモノを塗るんだ。しかもこれでいくと作ってはいない。

食堂のおばちゃんの名台詞と共に、一枚は父の手紙が。


『随分とうなされていたお兄ちゃんへ。某有名サイトgoggleによれば、うなされる原因はストレスだと書いてありましたが、私とお父さんがいる愛溢れる家庭でそれは無いと断言できるので、恐らくですが、二つ目の理由でしょう。夜、遅くまでゲームをしていると成長と発達に多大なる影響が出るようです。大きな音は妹の部屋にも聞こえてました。気をつけましょう』


柔道部で汗を流しているであろう妹の長々とした手紙。どちらも最後にハートマークがついてはいるが、恐らく妹のこれはカモフラージュだ。


帰ってきたら、土下座で謝ろう。しかし妹よ。お兄ちゃん、実は昨日、人を一人救ったんだぜ?


忌々しく強調的に存在するアプリを見ながら泣きそうになった。


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「おかしい‥」


俺は今、白で統一された家の前に立っている。表札には【藍良】という苗字が確かにかいてある。

昔の記憶を頼りにきたが、恐らくここで間違いないはずだ。


インターホンをもう一度押すが、何の応答もない。


「いないのか」


LICEでメッセージを送っても、何の反応もないので家に来てみたが、ここにもいないとなると‥。


「ミコばあの家?」


ミコばあとは、藍良の母方祖母の名前だ。

母親は昔から殆ど家におらず、藍良はミコばあの家に行っていたと聞いたことがある。

俺も何度か家にお邪魔させて貰った記憶があるが、とてもおおらかで優しい人だった。


スマホを見る。

時刻は17時31分。出掛けているのか?でも、自転車が止まっているということは、歩いていける所—‐‐‐。


『ヴゥー、ヴゥー、エマージェンシー!!!エマージェンシー!!!ヴゥー、ヴゥー、プリーズヘルプヒム!!!』


「おわっ!」


突然の激しい振動と音が鳴り、手に持っていたスマホが滑り落ちる。


「まさか‥」


スマホを拾い恐る恐る画面を開くと、昨日と同じように憑依アプリからお知らせが届いていた。


ひょういこみゅにけーしょんのテツヤをタップする。


『...に.き、じ、て』


「もうヤダ、このアプリ‥」


冗談ではなく、涙が滲んでくる。




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