終わりと始まり④
「可愛くねーよ!梅雨葉、全部報告してるわけ?いつ、どこで、誰と、何故、どのように、ナニをしているかまで⁈」
「え、お兄ちゃんの発想キモ。そんな所まで把握しようとする親がどこにいるのよ。ドン引き〜」
大袈裟に両手で口元を隠す仕草をする。
妙に色気付いたネイルが目立つ。不良娘め。
何がムカつくって、俺にそこまでの報告を求めていた親父が妹と同じように引いている事だ。
「友達とファミレスで勉強してたの。今から帰るねーって報告済み。文句ないでしょ」
「梅雨葉はちゃんと連絡してくる。不良息子と違ってなぁ!それに」
親父は大きい体を近づけてきて耳打ちしてきた。
「実は梅雨葉のスマホには昔入っていたGPSアプリがまだ残ってるんだ」
人差し指を鼻に当て「内緒だぞ」とウインクをしてくる。
「‥妹。この親父お前の居場所をGPSアプリで把握してるらしいぞ」
「お前‥」
親父が信じられないと言った顔で俺を見てくるが、鬼のような形相になった梅雨葉が親父の肩を持ち「お父さん?」と無理やり振り向かせた。
その隙を見て俺は二階の自室へ勢いよく走っていく。
「まて、定春、定春ー!」
さようなら親父。自分で蒔いた種は自分で処理をしな。
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部屋に着き、鞄を無造作に放り投げる。
ベッドに腰掛け、長い息を吐いた。
『私と付き合ってよ』
『私と、駆け落ちしてよ』
「やっぱり、おかしいよな」
幼い頃からの付き合いだから分かる。
今日の藍良は普通じゃ無かった。
冗談、と笑ったが、そんな冗談を言う奴じゃない。
ポケットの中にあるスマホを取り出し、藍良の電話番号を開く。
掛けるか。
いや、電話をしたところで何を話せば‥。
告白をする?それこそ、どの面下げて、だろ。
俺が一人で悩んでいるとスマホから着信を知らせる音楽が鳴った。
「おっと‥ん?—はい」
『やっほー。今何してんの?』
弾むような声で掛けてきたのは、同級生の金木智永だった。
「今?部屋で勉強中」
『嘘つくなー。童が勉強なんてするわけ、あ、夏休みの宿題?当たりでしょ?』
「あー、そうそう。正解」
俺がいい加減に答えると『やった!』と喜ぶ。
「どうしたんだよ、急に」
『え?あー、うん。いや、あのさぁ、明日暇?』
「明日?明日は、ごめん、予定あるんだ」
歯切れ悪くそう聞いてくる金木にの誘いを断る。
『あ、そっかそっか』
「ごめんな」
『いやいや、謝りすぎでしょ。別に大した用事じゃ無かったの。ほら、夏休みも明日で終わるし、偶々前に言ってた映画のチケットが手に入ったから一緒に行かないかなーって』
ぐっ、そ、それは行きたい。しかし、明日はもう一度藍良に会いに行きたかった。
『宿題終わらないと行けないもんねー?あ、私教えてあげようか?』
金木智永は学年上位の成績を持つ優等生だ。親は共に銀行員なのでとても裕福な家庭で育ってきたらしい。
最も、それが金木にとっての幸せとは限らない。実際、高校の時に初めてあった金木は、金のなる木と揶揄され、文字通り周りの人間から搾取されていたのだから。
「いや、大丈夫。実は宿題が終わってないって言うのは嘘で、本当さは—」
俺は今日あった出来事を女子で唯一の友達に話した。
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