終わりと始まり③

「こ、の‥不良息子がぁー!」


「ぐへっ」


玄関のドアを開けると同時に、廊下から枕が飛んで来ておれの顔面に当たる。

変な生き物のような声を出した俺は、その枕を下に叩きつけた。


「何すんだ、クソ親父!」


「我が家では5W1Hが基本だといつも言ってるだろーが!」


「だからそれ、意味わかんねーよ!」


「お前‥受験生なのに5W1Hも知らんのか‥」


親父は悲しそうに眉根を八の字にした。


「それは知ってるわ!頭の悪い親父が妹の英語の教科書を見て、意味をよく分かっていないのに何となくの思いつきでそれを言ってきてるから、意味わかんねーって言ってんだ」


「あ、頭の悪い、だと?」


手に持っているおたまがワナワナと震え出す。

まずい、頭に血が登って勢いで言いすぎた。

でもここで怯むつもりはない!


「じゃあ言ってみろよ。5W1H」


「いいだろう。‥いつ、どこで、だれと、ナニを、したか‥お前この時間までどこで誰とナニをしてた!」


「情緒不安定が過ぎる!自分の不甲斐なさを息子への八つ当たりで誤魔化してんじゃねー!」


今、顔を真っ赤にし俺に怒鳴り散らしている男に向かって吠える。


身体は190cmを超える大男。大工という仕事柄か日に焼けた身体と盛り上がっている筋肉。白のタンクトップの上から明らかに小さいサイズのピンク色の花がプリントされたエプロンを着ている。


間違っても授業参観や体育祭の行事に来てほしくないこの奇人は、父親の力之助。


「さぁ言ってみろ、どこで、誰と、どんなエッチな事をしたんだ!」


「その妄想が気持ち悪いわ!四十路を迎えた大の男が息子にそんなことを聞いてくんな!普通に友達と喋っていただけだ!」


「どこのどいつだ!こんな時間まで息子と遊ぶ奴は!」


「俺もう高校生だぞ⁈何で交友関係の全部を親父に言わないといけないんだよ!」


「俺はお前を心配してるんだ。その反抗的な態度も、その友人が関係しているとしたら‥」


腕を組みながら目を細めて俺を見てくる。

ここで親父もよく知っている藍良の名前を出したら解決するだろうか。


いや、間違いなく言われるのは「藍良ちゃんと⁈ナニをした!」と凄い剣幕で聞いてくるだけだろう。


俺がもう部屋でゆっくりしたい、そんな風に思っていた矢先に玄関のドアが開いた。


「ただいまー」


スマホを片手にツインテールを揺らしながら玄関に現れたのは妹の梅雨葉。


しめた!

親父の矛先は中学二年生のこの妹にいくはずだ。


「おー、お帰り梅雨葉」


「お父さん、お腹すいたー。あれ、お兄ちゃんじゃん。珍しく外に出てたの?」


身長150cmの小柄な妹は小動物のように首を傾げる。


「おう。本当に、珍しく‥いや待て待て!おかしいだろ!」


俺は笑顔で妹に挨拶している親父に抗議する。


「何で梅雨葉には5W1Hで聞かないんだよ!」


「え?だって梅雨葉はしっかり連絡くれるし。ねー?」


妹と一緒に首を傾ける父親。

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