第18話
「・・・・・・・・・・・・。」
氷天龍とやらは何も言わずにただただエルバサの事を見ていた。
「黙ったままかの?」
エルバサが挑発するかのような口調で言うと、黙っていたままだった氷天龍が口を開いた。
「だって・・・・だって、アイツが素早いのがいけないんでしょ!!」
えぇー・・・・さっきまでの幻想的でクールなイメージだったが、それがたった今瓦解した。いや、してしまった。これは新しい残念龍が出てくるのか?
「お主が修行をサボっていたのがいけないんじゃろうが。」
「アタシが何しようが自由でしょ!大体父様も母様もやれ修行だなんて言って、一年間拘束されたんもんだから修行なんて嫌いになるでしょ!」
「それはお主が、全然氷天龍としての修行をしてこんかったのが原因ではないのか?」
「ち が い ま す!!!ちゃんとやってましたー!」
「・・・・具体的には?」
「えーと、爪のお手入れでしょ、身体の美しさを保つ方法でしょ、後は「もう言わんくて良い。」
「全くと言って良いほど修行をしておらんじゃないか。」
「あんなのやりたいと思う奴の方が少数よ。現にあの修行が好きな奴なんて、アンタ以外には炎天龍ぐらいしかいないじゃない。」
「おい!あの馬鹿と同列に扱うのはやめるのじゃ!」
「はぁ?アンタも大してアイツと同じじゃない!」
「大体お主もあの馬鹿と同じ所があるじゃろ!」
「何よ!」
一触即発の雰囲気に思わず帰りたいと思ってしまった。
ウルセェ・・・・なんでこんな喧嘩を聞かなきゃいけないんだよ。夜やぞ、真夜中で尚且つ山の中だぞ。帰って良い?
「主人よ・・・・彼奴の事が面倒くさくなって帰ろうとするんじゃないぞ。」
「バレてる?」
「うむ、勿論じゃ。」
「ついでに言うなら、お前の事も面倒っておもってるからな。」
「な・・・・!」
「面倒くさいってどう言うことよ!・・・・って人間?珍しいわね、アンタが人間といるなんて。」
「ちと訳ありでな。今は此奴と従魔契約を結んでおる。」
「アンタが・・・・従魔契約?・・・・遂に頭までイかれたのかしら?」
「イかれてなどおらんわ!」
エルバサが目をクワッとさせて、氷天龍を睨みつけた。
「何がそこまでの魅力があるのかしら?」
氷天龍は此方をじっと見ていた。
「な、何なの・・・・この人間。女神からの加護がとても強い・・・・!特に地母神からの加護が強い!」
「それだけではないぞ!此奴が作る飯は兎に角美味い!」
「もしかして・・・・アンタ飯に釣られたとかじゃないわよね?」
氷天龍がエルバサをじっと見ると、エルバサは目を逸らした。
「そ、そんな事ないわい・・・・。」
「嘘ね。」
その通りです。エルバサは飯に釣られた悲しき残念龍なんです。
「ふ、ふん。お主如きに主人の価値がわかる筈が無いわい。」
そう言ってエルバサはこっちを近づき・・・・
「此奴の目の前で飯にしてくれ。」
飯って・・・・さっきの褒美か。
アイテムボックスから焼きおにぎり2個取り出すと、氷天龍の目がクワッと開いた。
「な、アイテムボックス!?そしたら、この人間はもしかしてプレイヤーという奴なの?」
「そうじゃ、この焼きおにぎりというやつがまた美味い。」
エルバサは焼おにぎりを一口で食べると、そのまま静かに気絶した。
「え?ちょっと聖天龍さん?し、死んでる?」
「死んではいないですよ。」
「え?でもこれって・・・・。」
氷天龍は困惑したような感じで此方を見てきた。
「なんか美味すぎて気絶してるらしいです。」
「え?何それ?ちょっと気になるんだけど。」
「お主にはやらんぞ!」
「復活早やっ!」
早々に復活したエルバサは残り一個の焼きおにぎりを死守するかのように守った。
「そこまでケチになる必要はないんじゃない?」
苦笑紛れにそう言うと、エルバサが此方に来ていかにも怒っていますとか言うような感じだった。
「主人はあれの貴重さが分かっておらん。あれ一つで世界征服すら成し遂げられると言うのに、主人はその代物をあげろというのか!無理に決まっておろう!」
すーごい剣幕で捲くしられているんだけど・・・・これ俺が悪いの?
そんな事を考えていると、エルバサが死守した焼きおにぎりを氷天龍が隙をついて奪った。
「へぇー、これが例の焼きおにぎりね。」
「あ!お主!返さぬか!」
「無理でーす。」
そのまま氷天龍が焼きおにぎりを口の中に入れた。食べられた焼きおにぎりを見てるエルバサの後ろ姿に哀愁を感じた。
「ッ!!!!!」
氷天龍が焼きおにぎりを食べると目をクワッとさせ、まるで雷にでも撃たれたような衝撃をしていた。
「お、美味しい!!」
氷天龍はあまりの美味しさで周りの木々を凍らせてしまった。
食べ終えると滅茶苦茶速く此方に飛んできた。
「ね、ねぇこれ、アンタが作ったの?」
「そ、そうだけど・・・・。」
「もっと!もっと頂戴!何でもあげるから!」
そう言う氷天龍の顔はとても怖かった。
「ならぬ!此奴は儂の主人じゃ!お主にやる食べ物なんて少しもないわい!」
「そういえば、さっき従魔になったって言ってたわね。・・・・それならアタシも従魔になるわ!」
え、えぇ!?また食べ物に釣られて従魔になるのか・・・・。
「ならぬ!ならぬ!儂の分が減るではないか!」
「良いじゃない?ねぇ?人間クン?」
断ったら承知しねぇぞ的な目で見られたので思わず首を縦に振ってしまった。
「ぬ!し、しかしお主は従魔契約の紙を持っていないではないか!」
「ふふーん。これを見なさい!」
そう言って氷天龍は何処からか紙を取り出した。
「な!それは!」
「従魔契約の紙・・・・何かあった時の為にしっかり持ってたのよ!それじゃ早速始めましょう!」
紙を地面に置くと、氷天龍は血を垂らした。
「ほらアンタも血を垂らしなさい。」
えぇ・・・・また?血を垂らすのかよ。
アイテムボックスから包丁を取り出し指先を切ってそこから出た血を紙に垂らした。そして、目の前が眩しい光に包まれ、頭の中にアナウンスが聞こえて来た。
【氷天龍フロースをテイムしました】
「よっっし!良くやったわね!」
「ぬぅぅ・・・・主人よどうして契約してしまったんじゃ・・・・。」
真夜中の山の中そこには喜ぶ氷天龍と嘆く聖天龍でカオスな状態になっていた。
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