第7話 準備は整った


万が一陽子と不倫をしない未来になった場合に備えて『夫有責』の証拠も揃えておいたわ。


『実家にお金を使って贅沢三昧』


慰謝料をとれるかどうかは微妙だけど、確実に離婚は出来るから、安心だわ。


◆◆◆


和也さんはすっかり元の和也さんに戻ってしまったわ。


親には基本イエスマン。


だけど、今の私には全く関係ない。


だって、此処迄尽くしているから、義両親に好かれているから。


揉め事が起きないわよ。


尽くして、尽くして、尽くし続けると、相手も変わってしまう物なのね。


「裕子さん、このクリーム凄く良いのよ! 裕子さんの分も買ってきたわ」


「今日は裕子さんが遊びに来たから蕎麦でもとろう」


こんなの前の時は1回も無かったわ。


凄く義実家が過ごしやすいの。


義両親との生活が凄く楽しい…


だけど、これは維持できない。


この生活を続けたら、借金だらけになり破滅の人生が待っている。


だけど…『もし自分が金持ちだったら』この優しい義両親が手にはったのか…そんな馬鹿な考えも偶に浮かぶのよね。


何時かは破綻する関係、情にほだされちゃ駄目よ…


相手の自由にさせているから優しい。


それだけだ。


「ありがとうございます」


私は笑顔で義両親に微笑んだ。


◆◆◆


気がつくとあの日タイムリープしてから4年ちょっとが経っていた。


安らかに楽しく過ごしている。


和也はかなりクズに育ってきた。


休みの日には釣り具屋に良く行っている。


何故か解らないが魚釣りより道具に拘っている気がするわ。


「このリールと竿凄いだろう?」


「凄いわね、それ幾らしたの?」


「それが安くてね両方で6万円だったんだ」


「流石ね、見た感じからして豪華なのが素人の私にも解るわ」


6万円。


以前は1万円越えるものを買った時は必ず私に相談したのに。


「だろう、これで大物が狙える」


他にもキャバクラ通いに風俗通い、パチンコ競馬、私が黙って渡しているからすっかりダメ人間に変ったわ。


「そうね、それで和也、将来的にはお義父さんやお義母さんと一緒に二世帯住宅を建てて住もうと思うんだけど、やっぱり海の近くが良い?」


「そうだね、海の近くが良いかな」


「そう、解ったわ」


言質はとったわよ。



◆◆◆


「一緒に熱海に行きませんか?」


私は目的をもって義両親を旅行に誘ったわ。


「「熱海?」」


「はい、お義父さんもお義母さんも温泉好きじゃないですか? 和也さん、1週間位出張みたいなんです!どうですか?勿論費用は私の方で出しますから」


「いいわね、旅行、此処暫く行ってなかったわ、ねぇ貴方」


「そうだな、温泉で一杯やる、うん悪くない、裕子さんありがとう」


お金の力って怖いなぁ…


あの暇さえあれば、嫌味を言ってきた義両親が、今はこんなに優しい。


この旅行は…大きな罠だ。


◆◆◆


「温泉も気持ち良いし、カニも最高よ」


「露天風呂も大きくて気持ち良かったよ」


「そうですか?楽しんで貰えて良かったです! 実は将来二世帯住宅を建てる場所なんですがここ、熱海は如何でしょうか?」


「熱海ね…私は良いけど、和也や貴方が大変なんじゃない?」


「儂も此処に住みたいが仕事が心配だ」


義両親が田舎暮らしに憧れた時期があったのを聞いた事がある。


「それがね、最近の和也さんは釣りに嵌まっていて海のある場所が良いな、なんて言ってまして…私、調べたんですが此処から東京駅まで1時間掛からないみたいなんですよね」


「そんなに電車だと近いの」


「ええっ、そうなんですよ、病院も調べたんですが幾つもの別荘地ではヘリコプターの発着場があってもしもの時は東京の大学病院まで15分なんです、それに温泉病院も幾つかあるから、ある意味東京より安心です」


「だけど、近所付き合いが大変なんじゃ無いの?」


「普通の家ならそうですが、抜け道があるんですよ…だからこその別荘地なんです、別荘地なら周りとの付き合いは挨拶位で良いみたいですよ?」


「そうなのか…なかなか良さそうだな」


「それで、提案なんですが、良かったら少し物件を見て回りませんか?もうそろそろ二世帯住宅について考えても良い頃だと思います」


「そうね、それも良いわね」


「買う買わないは別に見て回るか?」


「それじゃ見て参りましょうか?」


あらかじめ、ネットで両親が気に入りそうな物を目ぼしをつけてあるわ。


まだまだ時間があるし今回が駄目でも、次回があるわ。


◆◆◆


あらかじめ、見学したいという旨は地元の不動産屋さんに伝えてあるわ。


昔は高級別荘地だったけど、今はかなり悲惨な状況。


それこそ、手放したくても手放せない別荘まであるのよ。


「こんな、凄い別荘がこの値段なの」


「信じられないな…」


そりゃ驚くわよね。


伊豆石を使った豪華な源泉かけ流しのお風呂。


6LDKのまるで豪邸みたい別荘が800万。


販売当時じゃ億単位の別荘だもん。


尤も維持費がかかるし、高級な物の老朽化は修理費用も馬鹿にならないから手放す人が多いのよね。


「ここは凄いですよ、皆で使えるテニスコートにプールもありますから」


「凄いわね」


「本当に凄いな…」


一件目で目を輝かせて、全く…


これは上手くいきそうね。


結局、何件も見て回り義両親が気に入ったのはタワマンだった。


1階にはレストランと喫茶店がありコンセルジュも居る。


他にはスポーツジムにプールもあって部屋の風呂以外にも大浴場もついている。


部屋も4LDKでリビングが16畳。


こんなタワマンでもたったの680万。


確かに安いけど、もう誰も買わないリゾートマンションだもの。


「こちらの物件はバブル当時は9800万円で分譲されていたんですよ」


「だからなのね」


「これなら中古でも充分じゃないか…こんな所に住めたら、幸せだな」


「それなら、和也さんに相談しましょうか? 下手に一軒家を買うよりこのマンションの2部屋買った方が安いわ」


「2部屋買うなら安くしますよ…あと2週間位なら特にお金も掛からず押さえておきます」


まぁ売れなくて困っているんだからそうなるよね。


このまま、行けば…長距離出勤と資産価値が無く、売りたくても売れない不動産を持つことになる。


しかも、腐ってもタワマン。


管理費は馬鹿高い。


維持費が掛って大変だわ。



◆◆◆


義両親のイエスマンになった和也は、断れるわけも無く、このタワマン2つをローンで買った。


2つで980万円まで負けてくれた...そこ迄下げても売りたかったんだ。


この物件が不良物件なのが解る。


保証人はお義父さん。


私は収入が少ないからと逃げたわ。


これで準備は整ったわ。


後は陽子に、完全なクズになった和也を押し付けるだけだわ。







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