第25話 初めての電車
こ、これは一体どうすれば良いんだ⁉︎
スマホを使いながら歩くこと十分。駅に到着したちゅうじんは目の前の機械に動揺していた。駅にある機械といえば、券売機である。初めてそれを見るちゅうじんは、使い方が分からずに困り果てていた。電車に乗るのに切符がいるということは、ちゅうじんも知っている。だが、それを入手するのに機械を通さなければいけないということは、ちゅうじんの頭にはなかった。てっきり、駅員さんから貰うものだと思っていたのだ。
「え、これどこ押せば良いんだよ。と、取り敢えず調べてみるか」
「ばふ?」
ちゅうじんはスマホを取り出して、切符を買う機械の使い方と検索してみる。すると、券売機という文字を発見した。この機械の名前は券売機というらしい。改めて検索し直してみると、ちゅうじんは一番初めにきたサイトをタップした。ざーッとサイト内の文字を見ながら、その通りに券売機の液晶画面を押していく。
「うお⁉︎ なんかいっぱい出てきた……」
どうにか料金ボタンまで辿り着いたが、いっぱいあるのでどこを押せばいいのか分からなくなる。
料金って何だよ。どこも一緒じゃないのか?
またしてもあたふたしていると、男性駅員がこちらに近づいてきた。
「どうなされました?」
「あー、券売機の使い方が分からなくて……」
「どこで降ります?」
「えっと、
駅員に聞かれたので、多田の会社の最寄り駅を口にする。駅員はそれを耳にすると、表示されている画面ボタンを見て、百六十円と書かれたボタンを指差した。
「妙魅駅までなら、このボタンを押せばいいですよ」
「お、おう」
駅員に言われるがままそのボタンを押してみると、購入金額と投入金額という文字が表示される。駅員からお金を入れるように言われ、そのままその料金に見合う金額を投入すると、取り出し口から切符が出てきた。
「おお! 切符が出てきた!」
「後は、この切符をあそこの改札に通せば電車に乗れますよ」
「教えてくれてありがとうな! それじゃあ」
「あ、ちょっと待って!」
切符を無事に買えたので、そのまま改札を通ろうとするちゅうじん。しかし、駅員に呼び止められてしまった。何だろうとちゅうじんが振り向くと、駅員が駆け寄ってくる。
「あのお客様、わんちゃん連れてますよね?」
「あー、そうだな。それがどうかしたのか?」
「わんちゃんを電車に乗せるには、手回り金が必要なんですよ」
あまりピンとこないちゅうじんに対して、駅員が説明をし始める。どうやら電車に犬を乗せる際には、手回り金というものを支払わなくてはいけないらしい。それは犬に限らず、ペットを乗せたり大きい荷物を乗せる際にも必要なのだそう。料金は百二十円と安いので、すぐに支払うちゅうじん。
「これでいいか?」
「はい。これでわんちゃんも乗せることができます」
「それじゃあ行くか!」
「ばふ!」
ちゅうじんは駅員に再度お礼を言うと、改札を通ってホームへと向かった。駅には通勤時間の影響か、沢山の人で溢れかえっている。駅に設置されている電光掲示板によると、電車が到着するのは五分後のようだ。それまで、列に並びながらホーム内の様子をキョロキョロと見る。スマホを弄っている人や本を読む人、電車が到着するまで暇なのかぼーっとしている人もいた。
『まもなく電車が参ります。黄色い点字ブロックの内側でお待ちください』
しばらく周囲の様子を観察していると、アナウンスが流れ出す。初めて耳にするそれにワクワクしながら待っていると、電車がホームに入ってくる。
電車一つとっても様々なデザインがあるもので、ちゅうじんが乗ろうとしている電車は、濃い紫をベースにところどころに金色のラインが入っていた。
上品さが感じられる電車なので、普通の人ならば乗るのに少し緊張してしまうかもしれない。しかし、そんなことは言っていられないのが通勤ラッシュで、続々と電車の中から人が降りてくる。それが終われば、今度は駅のホームにいた人の大半が電車に乗車し始めた。
「わあお……凄いな……」
「ばふばふ!」
「あ、ヤベっ!」
その光景に圧倒されていたちゅうじんは、ベンジャミンに吠えられてしまった。早く乗れという意味なのだろう。ちゅうじんも乗り遅れないように車内へと足を進める。かなり人が多いので、扉付近に立って発車するのを待つ。ちゅうじんが乗って数秒すると、発車ベルが鳴った。突然聞き慣れない音が鳴ったせいで、ちゅうじんとベンジャミンはビクッと肩を震わせる。
な、なんだ? この音……。
ちゅうじんが疑問に思っている間に、ガタンッ! と扉が閉まり、電車が動き始めた。思わずバランスを崩しそうになるところを頑張って踏ん張るちゅうじん。
キャリーケースに入っているベンジャミンを気遣いつつも、外の景色を見ると奇異市の街並みが広がっていた。こうして上から見てみると、奇異市というのは案外広いことが分かる。ショッピングモールはないが、商店街やオシャレな住宅街が目に映った。
おお〜! 真上から見ると凄い迫力だな。
自然と頬が緩むちゅうじん。キャリーケースの中のベンジャミンも、その景色に目を輝かせている。すると、電車の速度が落ち始めた。そろそろ次の駅に着く頃だろう。周囲の乗客が降りるために、出入り口に移動し始めた。ベンジャミンの入ったキャリーケースが人混みのせいで、揺れてしまう。
「ばふ⁉︎」
振動でバランスを崩しそうになるが、それに気づいたちゅうじんが両手で抱える。ちゅうじんが内心ため息を吐くと、駅に到着したようで扉が開いた。降りる人に押されて、そのままホームへと流されてしまうちゅうじん。突然のことに驚くも、すぐに発車ベルが鳴ったので急いで車内に戻る。
多田は毎日こんな電車に乗って、会社に行っているのか……。
改めて多田の凄さを実感するちゅうじん。ふと車内を見て見ると、先ほどよりもかなりガラガラになっていた。座席も数席空いている。
ベンジャミンのことも考えたら、これは座った方が良さそうだな。
ちゅうじんはそう思うと、空いている座席の一つに腰を下ろす。案外座り心地がいいので、長時間座っていても疲れることはなさそうだ。キャリーケースを自らの膝に置き、中の様子を眺める。ベンジャミンは先ほどよりも落ち着いているようだ。だいぶこの空間になれたのだろう。車内が快適なせいかベンジャミンがあくびをした。
「寝てもいいぞ」
「ばふ……」
ちゅうじんがそう言うと、ベンジャミンは身体を丸めて眠りについた。昨日は中途半端な時間に寝たからまだ眠いのだろう。ちゅうじんはその様子を見守りながら、スマホで自分たちの降りる駅を確認し始めるのだった。
◇◆◇◆
『次は妙魅、妙魅。ホーム幅が広くなっていますので、ご注意ください』
下車する駅を調べるついでに、スマホを弄っていると車内アナウンスが鳴った。ちゅうじんはスマホをポケットにしまい、扉の前まで移動する。その振動でベンジャミンも起きたようだ。
電車がホームに停車すると、扉が開く。ちゅうじんは足元に気をつけながらホームへと降りると、そのまま改札へと向かう。切符をポケットから取り出して改札を通ると、太陽の光で目が眩んだ。少し瞬きをして目を慣らすと、大きな建物がたくさん視界に入ってくる。
「おお〜! ここが妙魅か!」
「ばふばふ!」
「キテレツ荘のある地域とは違って色んな建物があるぞ!」
少し周囲を見回すと、大きなビルが見える。ここの付近に多田の会社があるのかと思いきや、そんなことはなく、しばらく歩かなければならないようだ。しかし、駅から会社までのルートを調べるのを忘れたちゅうじんは、どの道のりで行けばいいのか分からない。
「せっかくここまで来たのに……どうしよう」
「ばふ?」
ベンジャミンはちゅうじんの呟きに首を傾げるのだった。
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