第二章 宇宙人と企画開発課

第23話 多田、一週間留守にする (前編)


「あ゛ー、疲れた。あのクソ上司はいつも急に言ってくるから、対処するこっちの身にもなって欲しいわ」

 

 リビングに入った途端、上司への愚痴を吐く多田。鞄を空いている椅子に置くと、ベンジャミンに絡もうと愛犬の元へと向かう。相当疲れている多田はベンジャミンに抱きつこうとするが、見事に躱わされてしまった。


「ばふ!」

「グエッ! おい、そりゃないだろう」


 多田が床に突っ伏す姿勢になると、ベンジャミンが多田の背中を片方の前足で踏みつけ始める。きっと変に触ろうとした罰だろう。その様子をソファに寝っ転がりながら見ていたちゅうじんは、多田に声をかける。


「おー、おかえり。後、ベンジャミンはその辺にしておいてやれ〜」

「ばふぅ……」


 仕事で疲れている多田が可哀想だと、ちゅうじんはベンジャミンにストップをかける。飼い主に言われたのが効いたのか、渋々前足を床に下ろすベンジャミン。その後、ベンジャミンは構って欲しいのか飼い主の元へ歩いてきた。

 寄ってきた愛犬をちゅうじんが撫でていると、多田が立ち上がって、あっ! と何かを思い出したような声をあげる。


「どうしたんだ?」

「言い忘れてたが、明後日から一週間ほど家開けるから留守番よろしくな」

「え、なんでだよ?」


 何故、一週間も留守番をしなければならないのか分からないちゅうじんは、多田に聞き返す。飼い主同様、ベンジャミンも多田の方を見て、頭にはてなを浮かべている。


「なんでって言われても、仕事だからな。うちの会社の謎ルールの一つなんだが、ツアーの企画者は同時にそのツアーの責任者って扱いになるんだよ。今回のツアーを企画したのは俺だから俺も現地に行かないといけないんだ」

「んー、なるほど……?」

「まあ、細かいことは分からなくても良いから、取り敢えず留守番だけはしっかり頼んだぞ」


 多田の言っていることがイマイチピンとこないちゅうじんは、取り敢えず分かったと返事をする。学校でもなんでも謎ルールというのはどこにでもあるもので、多田の会社の場合は、ツアーの企画者は必ず自分の企画したツアーに同行しなければならないというものだった。

 そんなややこしいことをしなくても良いだろうと入社当時の多田は思っていたが、長く会社に勤めていると慣れてくるようで、もうスーツケースの準備を始めている。 慌ただしくリビングと自室を行き来する多田を眺めながら、さっそくちゅうじんはその一週間をどう過ごすかを考えていた。


「んー、家で過ごすのも良いけど、やっぱり何処かに出かけたいよな!」

「ばふばふ!」

「近場だとやっぱりユ○バとか? いやでも入場料高っ!」


 スマホでホームページを見ていたちゅうじんは、某テーマパークの入場料に驚く。ベンジャミンもその金額にびっくりのようだ。他に何処かないかサイトを漁り始めるが、どこも金銭的に厳しくちゅうじんはため息を吐く。

 世の中にはバイトというものがあるらしいが、宇宙人がバイトなんてしたらそれこそ大問題だ。まあ、人間に擬態できる能力を持っているちゅうじんならば可能なのだろうが、どうやら本人にその気力はないらしい。


「んー、テーマパークが無理ならショッピングモールとか……いや、でも奇異市にはなかったっけ。なかなかに不便すぎやしないか⁉︎ この街」

「ばふぅ……」

「あ、映画館ならワンチャン行けるかもしれない!」


 ちゅうじんは再びスマホを操作し始める。どうやら、ここから車で二十分のところの商店街に映画館があるようだ。歩いたらかなりかかるだろうし、車の免許も持っていない。そして、ちゅうじんにそこまでして行く理由もないので、映画館も無しだ。

 結局、家で過ごすのが一番だと考えたちゅうじんは、見たいアニメやドラマの選定に入る。


「あ、分かってるとは思うが、キテレツ荘の皆に迷惑かけるなよ〜」

「うい〜」


 リビングに物を取りに来たついでに、忠告する多田。ちゅうじんは適当に返事をする。多田はこいつ本当に分かってるのか、と顔を引き攣らせながら物を引き出しから取ると、そのまま自室に戻って行った。


「んー、迷うな……。取り敢えず、ガ○ダムシリーズは制覇したいからそれから見るか」

「ばふばふ!」


 今の時代、配信アプリで一気見が可能なので、配信されているサイトを確認していく。すると、奇跡的に全てのシリーズが揃っている配信サイトを見つけた。全シリーズ配信されていることが分かって喜ぶちゅうじん。


 この情報は武尊にも教えないとな!


 同じオタクとしてこれは情報共有しなければならないと、ちゅうじんは一人張り切っている。その間にもベンジャミンは眠たそうにうとうとしていた。深夜二時を回っているので当然といえば当然だが。

 多田の自室から物音が聞こえなくなったので、そろそろ多田も寝た頃だろうか。こんな所で寝られては困るので、ベンジャミンを叩き起こす。


「んー?」

「寝るならここじゃなくて、小屋の方に行けよー」

「はーい」


 多田が眠りについたことによって、人語に切り替えたのだろうベンジャミンは、犬小屋の方へと移動する。ちゅうじんはその様子を見届けると、一週間何をするか計画を立て始めるのだった。



─────

というわけで、第二章開幕しました!

ここで、お知らせです。第二章は毎日2話更新にしようと思います!

平日は7時、19時。土曜日は10時と19時。日曜日は15時と19時になります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る