閑話 うーさんの日記 (後編)
メインルームから出て廊下を歩いていると、ベンジャミンが周りをキョロキョロ見回していた。どうしたのだろうとちゅうじんが尋ねる。
「いや、本当に珍しいものでいっぱいだなーって思って。少なくとも地球にこんな機体とかないからさ」
「へえ、そうなのか。ってことはボクが住んでる惑星の方が進んでるってわけだ」
「いつかちゅうじんの惑星に行ってみたいな〜」
「ふふん! うちの惑星にはもっと凄いものがいっぱいあるから、見たら腰抜かすかもな!」
それを聞いたベンジャミンが目をキラキラと輝かせながら、何があるのか訊いてきた。すると、ちゅうじんがいくつか例を挙げて説明し始める。ベンジャミンは興味深そうにちゅうじんの話を聴きながら、廊下を進んでいくと、とある扉の前に着いた。
「ここは?」
「ボクの部屋だな。ちょっと用事があるからボクは入るけど、お前はどうする?」
「入るに決まってるでしょ! 宇宙人の自室とか、絶対珍しいものしかないし!」
「お、おう。じゃあ開けるぞ」
メインルームに入る時と同じようにカードを機械にかざすと、扉が開いた。ちゅうじんに続いてベンジャミンも中へと入っていく。モニター付きのデスクや就寝用のカプセル式のベットなどが設置されていた。
多田家のちゅうじんの自室が物で溢れかえっていることを知っているベンジャミンは、とてもシンプルな部屋を見て、えっ? と声を漏らす。ベンジャミンが驚きで固まっている間に、ちゅうじんは左手首につけていたデバイスを外し、それをベッド脇の専用の機械に設置した。すると、空中に縦二十五センチ、横十七センチの白い画面が現れる。その光景を見たベンジャミンは、なんだろうと不思議そうに首を傾げた。
「何それ?」
「んー? ああ、これは地球に来てからの記録がまとまったファイルだよ。ベンジャミンも見るか?」
「え、良いの⁉︎」
「うん」
ちゅうじんから許可をもらったベンジャミンは、ベッドに飛び乗ると表示された画面を覗き込む。ちゅうじんが画面をタップすると、最初に人物ファイルが出てきた。多田やベンジャミンを始め、キテレツ荘の住人たちから多田の友人や後輩、先輩まで。現時点で遭遇したことのある人の情報が載っている。ちゅうじんが身につけているデバイスは情報記録の機能があるらしい。ずっとダラダラとニート生活を送っているだけかと思いきや、そうではないようだ。
「まあこんな感じに、自動で今まで起こったことをまとめてくれるんだ」
「凄いな、そのチョーカー!」
「だろ? 他にもこんなこともできるんだぞ」
ちゅうじんはそのまま次の項目をタップした。すると、今度は映像が流れ始める。それらの映像は、これまでの出来事をちゅうじん目線で映したものだった。まずは多田との出会いから交流会までの映像が流れていく。
「おお〜、懐かしいな!」
「へえ、ボクがこの家に来る前までにそんなことがあったんだ。お花見とか参加したかったな〜」
「あの大家のことだし、どうせ毎年のようにやってるんじゃないか?」
「確かにやってそう!」
そう話し終わると、次にちゅうじんは葵祭の映像を再生する。それをベンジャミンと一緒に見ていくと、多田の後輩である下条が出てきた。下条がバスガイドとして葵祭の歴史を説明している姿を眺める。すると、ちゅうじんは首を少し傾げた。
あれ? そういえば多田の会社について何にも知らないな。
そんなことを考えていると、ベンジャミンに肩を叩かれる。
「どうした?」
「今のって、もしかして念力?」
「え? あー、そうそう。牛がこっちに突進してきたから、慌ててやっちゃったんだ」
何やってんだよという目で、ベンジャミンがちゅうじんの方を見ているが無視する。結局あの後、誰にも宇宙人とは怪しまれずにやり過ごし、後日京都市長に賞状を貰ったのだ。ちなみにその賞状はちゅうじんの自室に飾られている。
「よし! そろそろ帰るか」
「あ、もうそんな時間なんだね。気づかなかったや」
ある程度映像を見終わると、ちゅうじんがベッドから立ち上がってデバイスを腕に装着した。日も暮れてきているので、そろそろ帰らなければならない。ここは裏山なので、早く帰らないと真っ暗になるのだ。ベンジャミンをゲージの中に戻して機体から出ると、既に日が半分近く沈んでいた。
多田の帰りは遅いのでそこは心配ないが、この裏山付近は悪いものが出るらしいので、そそくさと退散する。
その後、家に帰ったちゅうじんは、甘野から教えて貰ったレシピの通りに夕飯を作るのだった。
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これにて第一章完結です!
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
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