閑話 うーさんの日記 (前編)

 

 例のスイーツコンテストから数日後。甘野が専門学校の課題で忙しいらしいので、ちゅうじんはベンジャミンを専用のキャリーバッグの中に入れて、裏山に来ていた。

 勿論、UFOを直すためである。多田と暮らし初めて以降、ちゅうじんはただニート生活を送ってきたわけではない。

 ちゃんと、UFOを直すための資材集めをしていたのだ。集めた資材はUFO近くの森林の中に隠してあるし、裏山には人が滅多に来ないのでバレる心配もない。まあ念の為にと、UFOと資材には迷彩をかけてあるので、万が一人が来ても問題にはならないだろう。

 そういうわけでちゅうじんは今、資材を取りに森の中を歩いていた。


「えーっと、確かこの辺りに……。よし、見つけた」

「ばふ?」


 記憶を頼りに資材を探していると、小さな赤い旗を発見する。これは前回来たときに目印として立てていた物だ。周りに誰もいないことを確認すると、ちゅうじんは木材の迷彩を解いた。結構、広範囲に渡って資材が並べられているのが目に見える。

 ちゅうじんはそれらに手で触れると、念力を発動させた。資材がふわふわ浮くのを確認してから、それらをUFOの元へと移動させていく。


「ばふ⁉︎」

「ん? あー、これを見るのは初めてか。これは念力って言って、物を浮かせることができる能力なんだぞ」


 なんの前触れもなく、鉄やアルミの塊が浮いたのでビクッと身体を震わせるベンジャミン。それを見たちゅうじんは、念力を使えることを説明していなかったことを思いだした。犬に人間の言葉は分からないだろうが、ちゅうじんは自分の喋っている言葉を翻訳することができるので、犬にも伝わるようになっているのだ。


「まあ、いくら言葉を翻訳したって犬だから理解できないだろうけど――」

「――分かるよ!」

「……マジか。てか、翻訳通してないのに犬が人語を喋った⁉︎」


 突然、人語を操り始めたベンジャミンに驚きを隠せないちゅうじん。だが、こういうことは今までの経験上、何度かあったので、この犬もその部類に入るのだろうと自己解決させる。取り敢えず、今は資材を運ぶことが何よりも優先だ。ちゅうじんはUFOの元へと急ぐのだった。



◇◆◇◆



 UFOの元に着き、資材を一箇所に固めて地面に下ろす。UFOの迷彩を解くと、扉が壊れていないか確認する。その結果、幸い中へと続く扉は壊れていないようなので、そのまま中へと入っていく。

 内部はミサイルと多田の家にぶつかった衝撃でかなり破損していた。これら全てを直すには、かなりの歳月がかかることだろう。ちゅうじんは一旦、安全そうな場所にキャリーバッグを下ろした。どうやら翻訳を通さずとも人語が分かるようなので、そのままベンジャミンに向かって話し出す。


「外の修理が終わるまではここで大人しくしてるんだぞ。絶対このキャリーバッグから出ちゃ駄目だからな?」

「勿論! でも、後で見学したいな」

「良い子にしてたらな」

「やったー!」


 ベンジャミンの頭を軽く撫でると、ちゅうじんは工具箱とハシゴを持って外に出ていく。機体にハシゴを引っ掛けると、外装部分に着地した。工具箱を自身の足元に置くと、破損部分を改めて確認し始める。それが終わると、資材を念力で浮かしてハンマーで直していった。



 その作業を繰り返すこと三時間。外装の半分を修理し終えたちゅうじんはUFOの中へと戻ってきた。待ちくたびれたベンジャミンはいつの間にか眠りについていたようで、スヤスヤと寝息を立てている。


 起こすのはこれを戻しに行ってからでもいっか。


 キャリーバッグの中で眠っている愛犬を横目で見ながら、工具箱を元あった場所へと戻しに行く。何かあった際、すぐに取り出せる位置にあるので、戻しに行くのにそれほど時間はかからない。工具箱の代わりにカードを手に持って戻ってきたちゅうじんは、ベンジャミンを起こすために腰を下ろす。


「おーい、見学しないのかー?」

「する! 早く開けてくれ!」

「はいはい」


 ベンジャミンに呼びかけると、即効で目を覚まして立ち上がった。


 元気なのは良いことだけど、どれだけ楽しみなんだよ。そんなに珍しい物は機内にはないはずなんだけどな……。


 ちゅうじんはベンジャミンに言われるがまま、キャリーバッグを開ける。そこから出たベンジャミンは、上機嫌に飼い主の周りをぐるぐる回り始めた。早く案内しろということなのだろう。


「ってお前、思ったよりも生意気だな」

「ほら、犬って飼い主に似るって言うし」

「誰が生意気だコラ。そんなこと言うんなら案内してあげないぞ」

「ごめんなさい。言うこと聞くから案内してー!」


 なんだか喋るようになってから、一気に生意気度が増した気がする。もしかしたら、これがこいつの本性なのかもしれない。


 ちゅうじんは内心そんなことを考えながら、ベンジャミンを連れて機内を歩いていく。しばらく歩みを進めると、ちゅうじんが手に持っていたカードを専用の機械にかざした。どうやらそれは、この先へと入ることができる許可証らしい。

 扉が開くと精密機器が大量に並んでおり、操縦席らしき部分が見える。外から見るよりもだいぶ広いので、機内には何かが施されているのかもしれない。


「ここがメインルームだ。主にこの機体を動かすところだな。外部からの通信とか仲間との通信設備もここに集約されてるから、無闇に触るんじゃないぞー」

「分かってる分かってる〜。確か、多田の家にぶつかった時に壊れたんだっけ?」

「そうそう。今は外装修理だけだけど、今後は中の方も直していかないといけないから。ってどこ触ってるんだよ⁉︎」

「あ、ごめーん。なんか見てたら動き出しちゃった」


 ベンジャミンが気になるところを見て回っていると、前足が操縦台にあるボタンに触れてしまった。ちゅうじんが慌てて駆け寄るも、既に手遅れで、機体の電源が入ってしまう。まだ直っていないエンジンが起動してしまい、ふわりと機体全体が浮いた。


「わあ⁉︎ え、凄い! 機体が浮いたー!」

「感動してる場合か! 早く電源落とさないと……!」


 一瞬、ギョッとした表情を浮かべる一人と一匹。このままでは迷彩機能もオンになっていないので、UFOの存在がバレてしまう。そうなっては、ちゅうじんも安心してこの地球で暮らすことはできなくなる。急いでエンジンボタンをオフにして、機体の電源を落とす。

 その瞬間、少し浮いていた機体が地面に落下して、ドスンッ! と大きな音を立てた。今の音でUFOの存在に気づかれていないか、すぐさま音声も拾う望遠鏡で町内を確認する。観測する限り、小さな地震が起きたのだろうと特に気にしていないようだった。


「全く、何やってるんだよ」

「ご、ごめんなさい……」

「取り敢えず、ここから出るぞー」

「了解!」


 ちゅうじんに怒られたベンジャミンは、申し訳なさそうに耳を垂らす。ここに長居してはまた問題が起きるかもしれないので、次の場所に移動することになった。



──────

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

明日で1章が完結しますので、ここでお知らせといたします。

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