第22話 ご近所さんと一緒! ー甘野編ー (後編)

 

「あ、うーさん! わんちゃんのお風呂終わったみたいですね。こっちもできましたよ!」

「おお〜! めちゃくちゃ美味そう!」


 テーブルに置かれたパフェを見てみると、そこにはさくらんぼやキウイ、イチゴといった果物からクッキーやアイスクリームなど、様々なものがのっていた。とても豪勢なパフェだ。ちゅうじんは目を輝かせながらそれを見ている。初見の感想をもらった甘野は、嬉しそうに微笑むと冷蔵庫の取手に手をかけた。


「寒天も出来上がっていると思うので、出してみましょうか!」

「そうだな! どうなってるか楽しみだぞ」


 冷蔵庫を開けてみると、全部で七つの保存容器が並んでいた。奥から順番に甘野が作った寒天、ちゅうじんが作った寒天が入っている。それらを二人で手分けして、テーブルに出していく。

 全て出し終わり、甘野が蓋を開けてみると、ちゅうじんが感嘆の声を上げた。


「凄いな! 液体だったのに固まってるぞ!」

「これが寒天の特徴なんですよね〜。では、食べてみましょうか!」

「だな!」


 甘野が中身を器用に取り出して、小さい包丁で人数分に切り分けていく。それを二つの小皿に盛ると、事前に出しておいたスプーンの前に並べていった。

 食べる準備が整ったところで、甘野とちゅうじんは席に座って手を合わせる。食前の挨拶を済ませると、二人はスプーンで寒天を掬って食べ始めた。


「ぷるぷるしてて美味しいぞ! これなら、このクソ暑い夏も乗り切れそうだな」

「ですね! ……お、初めてでこれは良い出来じゃないですか?」

「おお、やった! よし、これを多田に食わせてやれば、あいつも少しは見直すだろ」

「一体、何があったんですか……。っと、忘れるところだった」


 初めて食べる寒天ゼリーに感動しているちゅうじん。甘野に褒められたので、鍋の一件以来、ちゅうじんの料理を口にしていない多田にも食べさせようと、意気込んでいる。

 そんなちゅうじんの様子を見て過去に何があったんだと苦笑いする甘野。すると、彼女は何かが足りないことに気づいたのか、席を立つと冷蔵庫を漁り始めた。

 中から取り出したのは、パフェに使ってまだ残っている果物。それらをまな板の上に置いて、一口サイズにカットしていく。切り終わると、餌用の容器に盛り付けた。

 どうやら、ベンジャミンのおやつを作っていたようで、甘野は完成したそれを彼の元に持っていく。


「はい。ベンジャミンにはこっちね」

「ばふばふ!」

「良かったな!」

「ばふー!」


 目の前に置かれたおやつを見て、嬉しそうにするベンジャミン。冷蔵庫に入っていたものをすぐにカットしたからか、冷たくて美味しいのだろう。次々と果物を食していく愛犬の姿を見たちゅうじんは、嬉しそうに微笑んだ。

 ベンジャミンが食べてる姿を横目に見ながら、残りの寒天を一気に口に運んでいく甘野。ふとちゅうじんの方に視線を向けると、早く食べたくて仕方ないのか彼がパフェをじっと見ていた。



「あ、パフェの方も食べて大丈夫ですよ!」

「分かった! それじゃあいただきます」 


 食べて良いと言われたちゅうじんは、すぐにスプーンを持つとてっぺんのアイスから食べ始める。その様子を固唾を飲んで見守る甘野。彼女の額にはうっすら汗が滲んでいた。

 ちゅうじんが半分まで食べ終わると、スプーンを容器の中に置いてから感想を言い始める。


「うん。色んなやつが入ってるから、食べてて飽きないぞ。味も甘すぎなくてちょうど良いから、スラスラいけるな。これなら甘いものが苦手な人でも食べられるんじゃないか?」

「それは良かったです!」


 ちゅうじんから高評価をもらった甘野は、よしと左手でガッツポーズをする。その表情は先ほどまでの固いそれとは違って笑みが浮かんでいた。


「これなら本番も大丈夫そうですね。うーさん、試食していただいてありがとうございます」

「どういたしましてだぞ!」


 無事に食べ終わったちゅうじんは満足そうな顔をしている。感想をもらった甘野は携帯しているメモ帳を取り出して、ボールペンで何かを書き込む。それが終わると、二人は後片付けをし始めた。その最中、ちゅうじんはあることに思い至り、甘野に話しかける。


「あの、良かったらなんだけど。ボクに料理を教えてくれないか?」

「え、私なんかが良いんですか⁉︎」 


 ちゅうじんは、駄目だろうなと頭の隅で思いながら話しかけてみたら、まさかの展開だ。その言葉を聞いた甘野は驚きの声を上げるも、その目は何故か輝いている。


「お、おう。むしろこっちがお願いしたいぐらいです!」

「わ、分かりました! 喜んで引き受けさせてもらいます!」

「それじゃあ、先生よろしくお願いします!」

「はい! こういう時のためにと、二人分の調理器具を揃えておいて良かったです」


 その後、甘野が引き受けてくれた理由を聞いてみると、昔から料理の先生をしてみたかったらしい。料理学校に入ったのもそのためで、将来は自分で料理教室を開くのが夢だそう。そういうわけで、自宅の水道が直り次第、ちゅうじんは甘野に料理を習うことになるのだった。



 そして後日行われたコンテストで、甘野は特別賞を受賞。優勝とまではいかなかったが、主催しているお店の店長が見事気に入ったようで、そのお店に甘野の作品が並べられることとなった。

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