第21話 ご近所さんと一緒! ー甘野編ー (中編)
甘野とちゅうじんが分かれて作業に入ってから一時間が経過した。部屋の中は甘い匂いが充満している。甘野はパフェを作るようで、切った材料が入っているボウルやチョコレートを溶かしたものから、クッキー生地まで、台所は大量のボウルや器具で埋め尽くされていた。
その横でちゅうじんは、黙々とコンロをフル稼働させて、三種類の寒天汁を同時並行で作っているようだ。ダイニングテーブルには寒天汁を入れる用の保存容器やアイスクリームの入った容器、コーンフレークなどが置かれている。もはやキッチンとダイニングはカオスな状態になっていた。
大忙しの二人に対して、ベンジャミンはリビングの隅にある犬小屋でスヤスヤと寝息を立てている。なんとも呑気なものだ。
「よし! 後はこれを容器に流し込んで冷やしたら完成するな」
「おお〜! 結構作りましたね〜」
数分経って、作業途中の甘野がダイニングテーブルに目を向けると、もう流し込んだのか、そこには五種類の寒天が入った容器が並んでいた。うち二種類は先に作っていたらしい。味はさまざまでグレープ味やピーチ味、中には果物の入ったものまであった。短時間でこれだけの量を作れるちゅうじんの手際は、大したものだと褒める甘野。
「ふふん! これでしばらくは暑さで倒れることもなくなるぞ」
「ですね! あ、後でそれ食べてみても良いですか?」
「勿論だぞ!」
それを聞いた甘野はやったー! と喜びながらも、手は止めずにクッキー生地をオーブンで焼いていく。それを見たちゅうじんは、流石だなと感じる。彼女はクッキー生地を焼いている間に、さっさと空いたボウルを洗っていった。それに倣うようにして、ちゅうじんも洗い終わった鍋や用具を布巾で拭いていく。すると、クッキーが焼けたことを知らせるようにチン! と電子音がなった。
「あ、出来上がったみたいですね」
さっそく出来上がったクッキーをオーブンから取り出す。プレーンからチョコレート生地まで、様々な種類のクッキーが出てきた。それを見たちゅうじんが感嘆の声を上げる。甘野はそれを見て微笑みながら、クッキーを種類ごとに小皿に分けていく。
「あ、うーさんも一つ食べます?」
「良いのか⁉︎」
「はい! 感想を教えてもらえると嬉しいです」
「それじゃあいただきます!」
ちゅうじんは甘野からプレーンクッキーを受け取ると、パクッと口に含んだ。噛んだ瞬間からクッキー特有の甘さが口の中に広がる。固さの方もちょうど良い感じで、サクサクと音がした。
「美味しいぞ! 固さもバッチリだ」
「なら良かったです! よし、じゃあ次は――」
クッキーの感想をもらえた甘野は上機嫌で、次の工程へと入っていく。どうやらまだまだ時間がかかるようだ。寒天を冷やしている間、やることがなくなったちゅうじんは、ベンジャミンの元へ向かう。甘野が試作品を作っている間に、ベンジャミンをお風呂に入れるつもりようだ。
「おーい、起きろ〜」
「ばふ……」
「お風呂行くから起きてくれよ〜」
「ばふ!」
お風呂という単語が聞こえた瞬間、ベンジャミンが立ち上がった。これは最近分かったことなのだが、どうやらこの犬はお風呂が好きらしい。犬はお風呂が嫌いなことが多いようだが、ベンジャミンは違うようで、今は一週間に一回のペースで入れている。尻尾をフリフリしながら風呂場へ向かうベンジャミン。その後をお風呂セットを持ったちゅうじんが追いかける。その光景を見ていた甘野は、わんちゃん良いな〜と呟くのだった。
◇◆◇◆
ベンジャミンをお風呂に入れ終わり、今はちゅうじんがベンジャミンの毛をペット専用ドライヤーで乾かしている最中だ。すると、キッチンにいる甘野から声がかかった。
「もう完成するので、それが終わったら来てください!」
「分かったぞ〜!」
ちゅうじんは甘野に届くように大きめの声で返事をすると、ベンジャミンの毛にブラシをかけ始めた。ベンジャミンは気持ち良さそうに目を細めている。あらかたブラッシングが終わると、ちゅうじんはブラシを元あった場所に戻して、リビングへと向かう。ベンジャミンもちゅうじんの後に続いていくのだった。
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