第20話 ご近所さんと一緒! ー甘野編ー (前編)
ベンジャミンが来てから二週間後。七月も中旬になり、最近は某温暖化の影響で暑い日が続いていた。今日は平日なので、当たり前だが多田は仕事だ。そして、当のちゅうじんはベンジャミンを散歩へと連れてきていた。今はその帰りである。
町内を一周した後、例の公園で一時間ほどベンジャミンと遊んだちゅうじんは、今にも溶けそうなぐらい汗をかいていた。一応、ちゅうじんの身体はある程度の体温調節ができるのだが、今日の気温は三十度とその範疇を超えている。
暑すぎる……地球ってコロコロ気温変わるから怖い! ……早く帰って冷たいものでも食べよ。
そう思いながら歩いていると、とあるポスターが貼られているのを目にする。
「ん? なんだこれ」
「ばふ?」
そのポスターには『第十七回スイーツコンテスト』と大きく書かれている。その文字の下には過去の優勝作品の写真が貼られていて、ケーキやパフェ、ソフトクリームといったスイーツが載っていた。
「おお〜! 美味そうだぞ!」
「ばふばふ!」
ちょうど冷たいものを欲していたちゅうじんは、それを食い入るように見つめていた。そしてベンジャミンに至っては、高速で尻尾を振りながら涎を垂らしている。
一人と一匹がそうしていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「あれ? うーさんじゃないですか。それにベンジャミンも。こんなところでどうしたんです?」
「あ、甘野さん! いや、冷たい物が食べたいなと思っていた矢先に、このポスターーを見かけたんだけど、これって何なんだ?」
「ここのお店が毎年開催しているコンテストですね。毎年多くの人が参加してるんですけど、今年は私も出る予定なんです!」
「へえ〜、そうなのか!」
甘野に言われて気づいたが、どうやらこのポスターを貼っているお店がその大会を主催しているらしい。審査員の欄には、ここで働いているであろうパティシエたちの名前が載っている。
彼女によると、この大会で優勝すればここのお店で実際に商品として出されるらしく、彼女自身も優勝に向けて奮闘しているようだ。
「あ、そうだ! 良かったらですけど、うーさんの家にお邪魔して一緒に冷たいスイーツでも作りませんか? 今、うちのキッチンの水道が破損しているので、練習したくてもできないんですよ」
「そういうことなら、全然うちのキッチンを使ってもらって構わないぞ!」
「ありがとうございます! あ、その代わりと言ってはなんですけど、私の作った試作品を試食してもらえませんか?」
「おお! やったー!」
スイーツ作りに使う材料はちょうどスーパーで買ってきたようなので、そのままキテレツ荘に向かうちゅうじんたち。ほぼタダで冷たいスイーツが食べられるということで、ちゅうじんはウキウキしていた。
ベンジャミンにも甘野特製のフルーツが与えられるので、飼い主同様ベンジャミンもテンションが上がっている。当の甘野は、数ある候補の中からどれを作ろうか考えているようで、あーでもないこうでもないと呟くのだった。
◇◆◇◆
キテレツ荘に着き、家の中に入るちゅうじんとベンジャミン。甘野は自分の家からレシピと残りの材料を取りに行ってくると言ったので、先に中に入って待つことに。
ちゅうじんは散歩から帰ってきたベンジャミンの足をタオルで拭き終わると、リビングの冷房をオンにした。先ほどまで暑い屋外にいたので、エアコンから吹いてくる涼しい風にちゅうじんは目を細めている。ベンジャミンは甘野が早く来ないかと、リビングをぐるぐると徘徊していた。事前に玄関の鍵は開けてあるので、そのうちやって来るだろう。
「お待たせしましたー! あ、この部屋涼しいですね」
「さっき冷房つけたからな」
「いやはや、ありがとうございます」
「ばふ!」
そうこうしているうちに、甘野が大量の材料をビニール袋に入れてリビングへやってきた。ひとまず彼女は空いているところにビニール袋を置く。すると、ベンジャミンが尻尾を揺らしながら歩いてきた。早くフルーツが食べたいのだろう。
甘野は、待っててねと言いながらベンジャミンの頭を撫でると、すぐさま準備に取り掛かった。一方のちゅうじんは、何か手伝えることがないだろうかとそわそわしている。それに気づいたのか、甘野が話しかけてきた。
「それじゃあ先に寒天ゼリーを作りましょうか!」
「えっと……寒天ゼリーってなんだ?」
「んー、そうですね。説明しても良いんですけど、実際に食べてみた方が早いと思うので、まずは作ってみましょう!」
「了解だぞ!」
甘野はそう言うと、事前に用意してあったお鍋に水を入れて火をかける。すると、そこに粉寒天を入れ始めた。ちゅうじんは初めて見るそれを不思議に思いながら、木べらを甘野に渡す。粉が溶け始めた頃を見計らって、彼女が木べらで先ほど入れた粉寒天を、三分ほど弱火でかき混ぜる。
それが終わると、甘野はちゅうじんの方を向いた。
「それじゃあ、うーさんは冷蔵庫からオレンジジュースを出してください」
「わ、分かったぞ」
ちゅうじんが冷蔵庫からオレンジジュースの入ったペットボトルを持ってくると、甘野はその蓋を開け出した。
……一体何をするつもりなんだ?
寒天がどういうものなのかイマイチ分かってないちゅうじんは、甘野の行動に首を傾げる。甘野の方に視線を向けると、ペットボトルの中身を数回に分けて鍋に入れていた。どうやら、数回に分けることによって色味を調節しているらしい。
「?」
だが、何故そんなことをするのかちゅうじんは分かっていないようで、頭に疑問符を浮かべている。
「ん? どうしました? ……あー、うーさんは知りませんでしたね」
ちゅうじんは寒天にジュースを入れて、味にバリエーションを加えるということを知らないのだ。それに気づいた甘野は、できるだけちゅうじんが理解しやすいように、言葉を選びながら話し始める。
「このジュースを入れる前の寒天は透明な色をしていたでしょう? それに寒天には味がないんですよ。でも、それだと面白みがないので、色付けと味付けを兼ねてオレンジジュースを入れるんです」
「なるほどな。じゃあ、レジ袋の中に色んな味のジュースが入っていたのもそのためか?」
「はい! そういうことです!」
「おお〜! 甘野さん凄い!」
ちゅうじんが甘野を褒めると、彼女は誇らしげな表情を浮かべる。そう話しながらかき混ぜているうちに、寒天がオレンジ色に染まってきた。ここで火を止めて、液体状の寒天を八百三十ミリリットルの小さな容器に移していく。容器は二個あるので、ある程度入れたらもう片方の容器にも同じように流し込んでいった。残りの寒天汁は、双方の量を調節しながら少しずつ入れていく。後はこれを冷蔵庫に入れて冷やすだけだ。
「はい。ひとまずこれで寒天汁はできたので、冷蔵庫で冷やしていきましょう」
「了解だぞ! にしても綺麗な色だな〜」
「でしょう?」
二人で会話をしながら、冷蔵庫に二つの容器を入れていく。二つ分あるのはちゅうじん達の分だけでなく、甘野の分もあるからだ。後は冷やすのを待てば、寒天のほうは完成する。
「さてと、それじゃあ私は試作品の方を作っていきますけど、うーさんはどうします?」
「そうだな。自分でも一回寒天作ってみたいぞ!」
「良いですね! それじゃあ今度は果物も入れてみましょうか」
「おお! それ良いな!」
そういうわけで、甘野はスイーツコンテストの試作品を。ちゅうじんは果物入りの寒天ゼリーを作り始めるのだった。
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