第19話 ご近所さんと一緒! ーみやび編ー (後編)
キテレツ荘から歩いて三十分ほどのところにそのペットショップはあった。そこは犬も持ち込み可能なので、ビーグルも一緒に連れて来ている。さっそくお店の中に入ると女性の店長さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ〜。あ、久しぶりみやびさん。このわんちゃんがさっき言ってた?」
「そうそう。保護犬だから事前に連絡入れておいた方が良いと思ってね」
「はい! 一通りの用品はもう揃えてありますので、よろしければそちらに案内しますね」
「あ、分かりました。お願いします」
多田たちがこの店に来る前に、みやびが店長に連絡を入れて事前にペット用品一式を取り揃えてくれていたようだ。店長に案内されるままそのブースに行くと、ドッグフードをはじめ、サークルからゲージ、専用の床材まで全て揃っていた。流石は店長である。
多田とちゅうじんは店長からそれぞれの用具の説明と使い方、他にも保護犬用に必要なものの説明をみっちり受けた。
「犬を飼うのって案外大変だな……」
「そりゃそうだ。お前にはこれから俺が家にいない間も、ちゃんと犬の世話をして貰わないといけないからな。しっかり覚えとけよ」
「もちろんだぞ!」
店長から説明を受けた後は、ビーグル用のおもちゃをそれぞれショップ内から選び持ち寄ることになった。ある程度選び終わったところで、事前に決めておいた専用ブースへと向かう多田とちゅうじん。
ビーグルは待ちくたびれたのか、みやびの腕の中で眠っているようだ。そっと起こさないようにブースの扉を閉める多田。しかし、足音が気になったのか、はたまた飼い主であるちゅうじんの気配に気付いたのか、ビーグルが目を覚ました。ビーグルはちゅうじんの方へ行こうとみやびの腕から降りる。
「あ、起きたのか」
「ばふばふ!」
「相変わらず変わった鳴き声してるな〜」
「犬種にもよるけど、ビーグルの鳴き声ってこんなに低くないのよね……。ちょっと気にはなるけど、今はおもちゃを選ばせてあげましょうか」
そうみやびに言われたので、二人は順番に持ってきたおもちゃをビーグルに見せていく。まず多田が手に持ったのは、ボールだ。チラチラとビーグルに見せて行くが反応がなく、気に入らないらしい。
続いて、ちゅうじんが持ってきたのは多田と同じくボールだ。しかし、それは中に音の鳴るクッションが入っていて、口に加えると音が鳴るものだった。ちゅうじんが指でボールを鳴らすと、ビーグルは尻尾を振り始める。
どうやら、多田の持っているものよりもちゅうじんの持っているボールの方が気に入ったらしい。
その後も、それぞれ持ち寄ったおもちゃを見せていくが、気に入ったほとんどのものはちゅうじんが持って来たもので、多田は見事に完敗していた。
「なんで、うーたんのばっかり選ぶんだよ……」
「そりゃあその子を拾って来たのがうーさんだから、それなりに安心感があるんでしょうね」
「うぇーい! やったぞ!」
みやびに追い討ちをかけられて撃沈する多田。その反面、ちゅうじんは自分の選んだおもちゃを気に入ってくれたことが嬉しかったのか、大喜びしていた。みやびの言う通り、ちゅうじんのことが気に入っているのもあるだろう。
人外同士、何か通じるものでもあるのかもしれんな。
そう密かに考えていると、みやびがふと何かを思い出したような表情を浮かべた。
「そういえば、わんちゃんの名前はどうするの?」
「今なら、お散歩用の首輪にわんちゃんの名前を無料で刺繍できますよ」
「あ、そういや決めてなかったな」
「すっかり忘れてたぞ」
おもちゃ選びに夢中で、すっかりそのことを忘れていた多田とちゅうじん。せっかくなら多田が決めるよりも、ちゅうじんが決めた方がいいだろう、と言うことになったので考え始めるちゅうじん。
しばらく考えるもなかなか良いのが見つからないのか、うんうんと唸っている。そこで一般的にはどういう名前が多いのか、多田が聞いてみた。
「そうね。犬種にもよるけど柴犬ならポチとかムギとか?」
「そのわんちゃんの特徴からつける人も多いですね」
「んー、なるほど。特徴か……」
みやび達からのアドバイスを聞いて更に考え込んでいたちゅうじんが、ふと周囲を見渡していると何かを見つけたのか声を上げた。
「なあ、あの植物の名前ってなんて言うんだ?」
「ん? えーっと確かあれはベンジャミンという観葉植物ですね」
「ベンジャミンか……かっこいいな!」
「ばふばふ!」
部屋の中にあった観葉植物の名前を聞いてちゅうじんがリアクションをすると、ビーグルも嬉しそうに吠え出した。これは気に入ったと見て良いようだ。その反応を見たちゅうじんがビーグルの目線に合わせてしゃがみこむ。
「よし! それじゃあ今日からお前はベンジャミンだ!」
「ばふ!」
「これからよろしくな!」
「ばふー!」
どうやら無事に名前が決まったらしい。店長はすぐに手続き用の用紙を持って来た。ここに犬の名前を書いて出せば、散歩用の首輪に刺繍をしてくれるようだ。多田は迷いなくそこに『ベンジャミン』と記入する。その用紙を店長に渡すと、彼女は店の奥へと消えていった。
店長を待っている間に改めて買うものを整理して、要らないものはみやびと多田が手分けして店内に戻しに行く。それが終わって帰ってくると店長が、お金を乗せるトレイと首輪を持って戻ってきた。多田は店長の元へ向かうと、手早く今日いる物の会計を済ませる。
「ありがとうございました! それでは残りのものは後日郵送させてもらいますね」
「はい、よろしくお願いします。みやびさんも今日はありがとうございました」
「ありがとうな!」
「良いのよ。お役に立てたようで良かったわ」
そうお礼を言い終わると、多田たちは店の外に出た。気づくともう日が暮れていたようで、外は真っ暗だ。早く帰って、ゲージの設置や室内用の小屋を設置しなければならない。
店長が見送る中、多田たちは足早にキテレツ荘へと帰るのだった。
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