第12話 ご近所さんと一緒! ー川島編ー (後編)

  

 午前中は結局、タブレットでロボットアニメを見て終わった。今日までに準備してきたおもちゃが台無しになってしまったのを嘆くちゅうじんだが、それも昨日甘野からもらったカレーライスを食べて復活したようだ。


 改めて甘野さんには感謝しないとな。


 ちゅうじんはそう思いながら食べ終わった食器を洗うと、再びリビングの方に戻る。ソファは相変わらず武尊に占領されているようなので、ちゅうじんはダイニングテーブルの方の椅子に腰をかけた。

 すると、武尊がソファから立ち上がって、どこかに行こうとしている。


「どこ行くんだ?」

「トイレ。ついてこなくて良いからね」


 そう言い残すと、武尊は廊下へと繋がるリビングの扉を開けて出ていった。


 なんだトイレか。それなら一人でも大丈夫……ってトイレの場所教えてなくね?


 ちゅうじんはそれに気づくと、急いでリビングから出て武尊を探す。まっすぐトイレに行ったのだろうかと、トイレのある場所まで行ってみるが、灯りがついていない。どうやらここには来ていないようだ。

 こうなったら片っ端から探すしかない。ちゅうじんは試しに多田の部屋を開けてみるが、そこにも誰もいないようだった。まあ、万が一入られでもしたら帰ってきて早々、多田に怒られる羽目になるのでそのことを考えたら入られずに済んで良かった。

 ならば一体どこに行ったのだろうか。洗面所や風呂場まで探してみるが見つからない。となると、残りの可能性は一つしかない。ちゅうじんの部屋だ。

 あそこには、人間に見られてはいけないものが沢山ある。念の為、今日の朝にそれらは引き出しの中に隠したのだが、好奇心であそこを開けてしまう可能性も否めない。

 そこまで考えたちゅうじんはダッシュで自室に向かう。多田に廊下を走るなと何回か言われたが、今はそんなことを気にしている場合ではないのだ。突き当たりの角を曲がると、武尊がちゅうじんの部屋の扉に手をかけるのが見えた。


「そこの部屋に入ったら駄目だぞー!」


 そう叫ぶが、時すでに遅し。ちゅうじんの部屋の中から武尊の驚く声が聞こえてきた。取り敢えず、ちゅうじん自身も部屋に入る。すると、武尊が目の前の光景に目を輝かせているのが確認できる。

 一体何に興奮しているのかと、武尊の見ている方向をちゅうじんも見てみると、そこには某ロボットアニメで有名なガ○ダムの自作プラモデルが置いてあった。


「え、何これすげー! もしかしてうーさんが作ったの⁉︎」

「あ、うん」

「マジか! こんなの自分で作れるのってすげぇよ!」

「そ、そうなのか?」


 まさか武尊がここまで食いつくとは思ってもいなかったちゅうじんは、驚きの表情を浮かべる。あの流石に二十センチサイズのプラモデルは引き出しには入りきらなかったので、そのままにしていたのだが、それが功を奏したとはちゅうじんも思っていなかったようだ。

 机の上に置いておいて良かったと胸を撫で下ろすちゅうじんに、武尊が興奮気味に話しかけてきた。


「なあ、このプラモデル欲しいんだけど良いか⁉︎」

「……え?」


 突然、そう言われて戸惑うちゅうじん。すると、武尊が神妙な顔をして話し始めた。


「ボクまだ子供だからお小遣いとかそんなに貰えないし、お母さんも忙しいからみんなが持ってるようなゲーム機とか買ってもらえないんだ。だから、友達の話についていけなくて……。ボクが話しかけようとしてもみんな無視してくるし。だからこのプラモデルをみんなに見せれば、ボクもみんなと仲良くなれるんじゃないかなって……」


 

 武尊の表情は話していくにつれて、さっきまでの笑顔から途端に泣きそうな顔へと変わっていく。


 ……なるほど。突然欲しいと言われて何事かと思ったけど、そんな理由があったとは。


 ちゅうじんはそんな武尊を見て、なんとかしてあげたいという気持ちになった。でも、だからといってそう易々とこのプラモデルをあげるわけにはいかない。ならばどうするか。しばらく考えると、良いアイデアが思い浮かんだ。


「なら、こういうのはどうだ?」

「え?」

「今から公園に行って、三本勝負で勝ったらプラモデルを無料であげよう」

「そ、それだけで良いのか?」


 武尊が困惑気味にそう聞いてくるが、ちゅうじんは笑顔でそれだけで良いぞ! と応えた。そうと決まれば、さっそく公園に向かおうと武尊がちゅうじんの腕を引っ張る。

 ちゅうじんは少し待ってと言い、武尊を自分の部屋から出て行かせる。すると午前中にしまっておいたおもちゃを幾つか取り出した。それを専用の袋に詰めると、ちゅうじんも部屋を出るのだった。



◇◆◇◆


 それから五時間が経ち、午後七時を回った頃。ちゅうじんと武尊は公園から戻り、恵美の帰りを待ちながらプラモデルの作り方やロボットの話をしていた。すると、ピンポーンと家のチャイムがなる。

 ちゅうじんがはーい! と言いながら玄関の扉を開けると、そこには出張終わりの恵美の姿があった。


「あ、うーさん。今日はありがとうございました」

「ボクも楽しめたから全然良いんだぞ!」

「あ、お母さん」

「ん? それは?」


 武尊が恵美の元へ荷物を持って玄関の方へと歩いてきた。恵美は武尊の方を見ると手に持っている箱を発見する。恵美の視線に気づいた武尊が、嬉しそうに話し始めた。


「これ、うーさんからもらったんだ!」

「勝負で武尊が勝ったんだよな!」

「うん!」

「あらあら。わざわざありがとうございます」

「どういたしまして!」



 そう、武尊が今手に持っている箱にはちゅうじんが作ったプラモデルが入っている。つまり武尊は見事、公園での三本勝負に勝利したのだった。嬉しそうな笑顔を見せる武尊を見て、ちゅうじんも嬉しそうにしている。その二人を見た恵美は微笑ましそうにちゅうじんにお礼を言った。


「それじゃあ今日のところはこの辺で失礼しますね」

「またお話聞かせてね〜!」

「勿論だぞ!」


 そう言って、川島親子は自分たちの家へと帰っていった。それを見送ったちゅうじんはリビングに戻り、先ほどまで占領されていたソファに寝転んだ。



◇◆◇◆


 それから数時間後、多田が帰ってくるとちゅうじんがリビングのソファでダウンしているのを発見した。鬱伏せになりながら呻き声をあげているので、だいぶ疲れたのだろう。


「おー、大丈夫か?」

「子供って恐ろしいゾ。どんだけ体力あるんダヨ。それを手懐ける恵美さんすごい」

「そ、そうだな」


 朝のやりとりを見るに、あの武尊って子供はだいぶ生意気そうだった。それを相手にしていたちゅうじんも流石だなと思う多田だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る